ガッツリ読書感想34冊

読書感想

アーモンド/ソン・ウォンピョン

矢島暁子 (翻訳)

あらすじ
「ばあちゃん、どうしてみんな僕のこと変だって言うの」
「人っていうのは、自分と違う人間が許せないもんなんだよ」
扁桃体(アーモンド)が人より小さく、怒りや恐怖を感じることができない十六歳の高校生、ユンジェ。
そんな彼は、十五歳の誕生日に、目の前で祖母と母が通り魔に襲われたときも、ただ無表情でその光景を見つめているだけだった。

2020年本屋大賞翻訳小説部門第1位
韓国で40万部突破!13ヵ国で翻訳

あらすじを読まず買ったもんだから、ユンジュの母と祖母が通り魔に刺される展開にびっくりした。
ユンジュ一人ぼちになるじゃん…しかも人から誤解ばかりされる失感情症なのに一体どうすんだよ…って。

しかしまぁ、いい小説だった。多くの人に薦めたくなる本。
とても苦しいけど温かい気持ちになれる。

息子が他の子と違うと気づいてから母親が悲嘆しながらも、立ち上がり、
感情がわからない息子に「喜」「怒」「哀」「楽」「愛」「悪」「欲」を丸暗記させたり、努力がすごい。
祖母は祖母の立ち位置で「可愛い怪物」と孫の全てを受け止めて、母親は息子がいつか一人でも生きていけるよう
いかにして社会に馴染むかあらゆる努力をさせる。
どちらも愛だけど、この母親の必死な気持ちが痛いほどわかる。
一生鳥かごの中に入れて子をあらゆる苦しさから守っていけるならどんなに楽な事か。
こ“普通の子"に見えるようにとの訓練を「間違った子育て」としないところもまたこの小説の良さだね。

ユンジュが転校先の高校で出会うもう一人の怪物ゴニ、彼の激しさも良かった。
ユンジュは母親が営んできた古書店を少しの間守り継いでいくんだけど、ここで繰り広げられる二人のやりとりが素晴らしい。
ゴニの苦しみと優しさと激しさに胸が苦しくなる。
そして、やがて訪れる一人の少女へ抱く恋心、うーん、なんか周りの空気がキラキラするぜ…w

思わず心臓に手を当てて自分の鼓動や体温を確認したくなる、そんなお話だった。
後味も良いのでほんとーにオススメしたい。

人質カノン/ 宮部みゆき

あらすじ
深夜のコンビニにピストル強盗!そのとき、犯人が落とした物とは?街の片隅の小さな大事件を描いたよりすぐりの都市ミステリー七篇。

人質カノン
十年計画
過去のない手帳
八月の雪
過ぎたこと
生者の特権
漏れる心

以上の7つのお話からなる短篇集。
短篇集ってあまり好きじゃなくて、シリーズものでも短篇集が出て時は読まない。
けど、昔読んだ宮部みゆき『地下街の雨』と横山秀夫の『第三の時効』で、短篇集でも面白いものは面白いんだな…と、気が向いたら読むことにしてる。
滅多に気が向くことは無いけど…。

で、こちらの短篇集で面白かったのは表題作「人質カノン」
主人公のOLがよく行くコンビニに強盗が現れる。人質となったのは、店員と主人公と中学生の男の子と酔っ払いのサラリーマン。その犯人はフルフェイスヘルメットを被っていて、ポケットから赤ちゃんのおもちゃのガラガラを落とす……、というちょっとしたミステリ。
なんだけど…なんとものんびりした人間模様。
あまり重たくはないがちょっと胸にくる、ちょうど良い塩梅。

それと「生者の特権」
二股をかけられていてその上フラれたOLが、自分が飛び降りて死ぬビルを物色のため夜中歩き回っていると、小学校の門をよじ登ろうとする子供の姿を見かける……。

この話が一番好きだ。いじめられっこの小学生男子とOLのふれあい。
決してベタベタしたものではないが読後感が良い。

「十年計画」なんかもよかったなぁ…。

どれもさりげなく「生きる力」をくれる短篇ばかり。
でも、そこまで力強くないので疲れたときにも読める内容。
さすが宮部みゆき。

あの本は読まれているか/ラーラ・プレスコット

吉澤 康子 (翻訳)

あらすじ
冷戦下のアメリカ。ロシア移民の娘であるイリーナは、CIAにタイピストとして雇われる。だが実際はスパイの才能を見こまれており、訓練を受けて、ある特殊作戦に抜擢された。その作戦の目的は、反体制的であるとして共産圏で禁書とされた小説『ドクトル・ジバゴ』をソ連国民の手に渡し、言論統制や検閲で迫害をおこなっているソ連の現状を知らしめること。一冊の小説で世界を変えるべく、危険な極秘任務に挑む女性たちを描いた傑作長編を文庫化!

2020年このミス海外篇第9位、エドガー賞新人賞部門ノミネート作品。

発売日に書店に走って買った小説。
こりゃ面白そう…とワクワクしながら読んだんだけど…。

「で?いつになったら本題に入るの?」という状態が中盤までダラダラ続き、
誰が主役なのかもわからず、かといって面白い群像劇が見られたわけでもなく…そしてスパイ要素にスリリングな展開もなく、
ときめくロマンスがあるわけでもなく………。
とにかく読んでて眠くて眠くて…。
登場人物が多いわりにそれぞれの関わりが希薄で、溢れる個性で読者をひきつけるような人物もおらず、誰にも感情移入できぬまま、オチもよくわからずラストページをめくった後そっと本を閉じた。

と、ここまでボロクソに書いたわけだが、実は私にも責任があり、『ドクトル・ジバゴ』が実在の本で、禁書としてソ連時代にあれこれあったという歴史的真実を全く知らずに読んでしまってたんだよね…。

これ知ってるのと知らないのじゃ全然感想変わってくるんじゃないかな。
とはいえ、どこまで実話で登場人物も誰が実在していたのかもわからない。
少なくとも『ドクトル・ジバゴ』の著者であるボリス・パステルナークと愛人、ボリスの妻なんかは実在してるけど、
なんだかCIAもパっとしないし、フェミニズムの織り交ぜ方も下手糞で、突然女同士の同性愛とか絡みだして、ここスパイ活動と全く関係ないんだよね…。
結局何を書きたかったのか著者の中でも優先順位決まってないんじゃ…と邪推してしまった。

唯一読み応えがあったのはボリスの愛人がボリスのせいで矯正収容所に入れられ散々な目に遭うところだけ。
これもラストはもう悲惨で、ボリスと愛人の身勝手により愛人の娘まで不幸になる。
ボリスのヘタレ具合が本当にイラつく小説だった…。

一体なんだったんだよ…これを読んでた私の時間は…。

スナッチ/ 西澤保信

あらすじ
22歳だった。次の日、ぼくは53歳になっていた。空白の31年。ぼくは、きみは、ぼくたちは、少しは幸せだったのだろうか。彼を襲ったのは、不条理でやりきれない、人生の黄金期の収奪。あらかじめ失われた、愛しい妻との日々。おぼえのない過去を振り返る彼に、さらなる危険が迫る。

なんか……思ってたのと全然違ったw
昭和52年、異種生命体に乗っ取られた充生。
目覚めると53歳になった自分がいた。

そこまではいいとして(よくないw)
一つの体に2つの意識を持ったまま、自分の意思で動かぬ肉体に歯がゆさを感じる充生だが、そこは意識が若い頃のままだからなのか割と能天気w

そして、とある殺人事件の犯人捜しをするハメに…。

こうやって書くとなんか面白そうな小説に見えるだろうけど、もうそういうのどうでもよくなるくらい著者の蘊蓄がすごすぎてお腹いっぱいになっちゃった。

西澤さん…この時期絶対自然療法とかドハマリしてたと思うんだよね。
エッセイにでも書けばいいんじゃない?って…思いながら、なかなか読み切るのに苦労した。

2011年の本だからそこまで昔ってわけじゃないのに、なんか全体的に古臭いし。
まぁ人にお勧めはしないですw

小説アドルフ・ヒトラー(1独裁者への道)/濱田浩一郎

あらすじ
小説で読む、世紀の独裁者アドルフ・ヒトラーの生涯。全3巻、刊行開始!!

「邪悪な独裁者」といわれた男の生涯を描いた初めての歴史小説!
「人間」ヒトラーの実像とは? 知られざる総統の初恋⁉ ユダヤ人はなぜ大虐殺されたのか? 世界大戦はなぜ起きたのか<? br><; br>ヒトラーの「愛」と「憎しみ」と「野望」を描く!

I(第一回配本)では、ヒトラーの幼少期から不遇の青年期を経て、ナチ党に入党し、演説で頭角を現して人々の注目を集め、そしてミュンヘン一揆の失敗で自殺を図ろうとするまでを描く。

※第二回配本「II―ヨーロッパの覇者への道」、第三回配本「III―破滅への道』続々刊行予定

《目次》
第1章 愛憎――アロイスとクララ

第2章 恋――シュテファニー

第3章 帝都――ウィーン

第4章 鉄十字章――ソンム

第5章 国民社会主義ドイツ労働者党――ナチス

第6章 ミュンヘン一揆――クーデター

ヒトラー入門編、なんて言われてるだけあってとても読みやすかった。
革命失敗までが書かれている第一巻。
このわかりやすさとあっさり感、文字の大きさも含め、読書好きの小中学生が読めるレベルなので学校の図書室にあるといいな~と思った(既に置かれてるかもしれないけど)
これ読んで自分は全然ヒトラーのこと知らなかったんだな…と改めて。
ただ、知りたくなかったってのはあって、ずっと伝記系の本も意識的に避けてきたのもある。
何故かというと、楽しみに取っておきたかったから。自分でもよくわからん…w
それと彼の有名な著書である『我が闘争』が「読みづらい文章」という評判だったので今もずっと未読のまま。
それについてはこの本にも書いてあった。
相当乱文な人だったらしい。

しかし、なんともまぁこんなややこしい性格の人だったのか…と驚くばかりで、こういう人格の人が成功して大物になるってのはあまり知らないな…。
ワガママでマザコンで落ちこぼれ野郎としか思えないんだよなぁ。
平和な時代に生まれついていたら確実にニートまっしぐらで最終的には街中で無差別殺人とか起こしそうだよね…。
やっぱり運命ってのはあって、ひとつひとつの何気ない場面が彼にあの惨劇を引き起こさせたってことなんだろうな。
面白いのは、何やってもダメで何がしたいのかわからないヒトラーが軍隊ではめちゃくちゃ才能発揮してるところ。
ガタイがいいとか喧嘩が強いイメージもなく、すごく意外だった。この生真面目さ、やるべきことを望まれる以上にやりきるっていうところが、実家や妹に迷惑かけてグータラしてる人間の行動には思えなくて不思議だ。それが彼の魅力なのか?
何処へ行っても良い友人に恵まれ信奉者に愛された要因はなんなんだろう…。

あと、ユダヤ人排斥のきっかけも、思っていたよりまとも?だった。
まぁまともなジェノサイドなんてあってたまるかって話だけど、もっと個人的なしょーもない恨みもあったのかと思ってたから。(女をとられたとか)

ただ、非常に読みやすい反面、彼のどこにどれほどのカリスマ性があったのかがいまいち伝わってこなかったのが残念。
映像ではないので演説の才能とか迫力ってのは出せなかったのかな。
でも表現力次第でどうにかなりそうだけど…それが小説の力だし。
とはいえまぁなんだかんだで続きを読むのが楽しみだ。

出版禁止/ 長江 俊和

あらすじ
なぜ「心中事件」のルポは、闇に葬られたのか――あの「放送禁止」の監督は、小説書いても、凄かった! 題材は、ある「心中事件」。死ぬことができなかった女性へのインタビューを中心に構成されたルポ「カミュの刺客」は、なぜ封印されたのか? 熱狂的中毒者続出の「放送禁止」の生みの親、長江俊和が放つ、繊細かつ大胆なミステリ。先入観を投げ捨てて、禁じられたこの世界へどうぞ。こんなに何度も「驚愕」できる本、滅多にないです!

とても評価の高いミステリ。
1時間で読み終えるくらいサクサク読み進められる。

伏線が散りばめられていてなかなか巧だと思う。
ただ、そこまで面白くなかったんだよな…。
もう何読んでもそこまで驚かなくなってしまったのか…私の感性は鈍っていくばかりなのか…。

男を惑わす魔性の女キャラって誰が書いても古臭くてワンパターンになるのは何故なんだ。
それもまぁこの小説にとっては一つの仕込みなんだろうけど…うーん。

なんだか世にも奇妙な物語を読んでるような感じがした。
と、思ったら放送作家なんだねこの人。

82年生まれ、キム・ジヨン

チョ・ナムジュ (著), 斎藤 真理子 (翻訳)

あらすじ
ある日突然、自分の母親や友人の人格が憑依したかの様子のキム・ジヨン。
誕生から学生時代、受験、就職、結婚、育児……キム・ジヨン(韓国における82年生まれに最も多い名前)の人生を克明に振り返る中で、女性の人生に立ちはだかるものが浮かびあがる。

「キム・ジヨン氏に初めて異常な症状が見られたのは九月八日のことである。(……)チョン・デヒョン氏がトーストと牛乳の朝食をとっていると、キム・ジヨン氏が突然ベランダの方に行って窓を開けた。日差しは十分に明るく、まぶしいほどだったったが、窓を開けると冷気が食卓のあたりまで入り込んできた。キム・ジヨン氏は肩を震わせて食卓に戻ってくると、こう言った」(本書p.7 より)

同年代の著者によるフェイニズム文学。
これがベストセラーになる韓国はすごいと思った、そして羨ましい。
韓国の女性差別は日本の比ではないとは聞くが、それでも日本の女性作家がこの手の本を出してベストセラーになるだろうか。

これは、韓国の女性が書いたものである、というワンクッション置いている安心感があるから日本の女性も手に取りやすかったんだと思う。
自国のこととして受け止めるにはあまりにもしんどい内容、リアルすぎる。
でも韓国人作家の本ということで「韓国も大変だよね、ひと昔前の日本だね」という軽さで読めるわけだ。
でも決してひと昔前の日本ではないと思う。現在進行形だろう。

不妊治療のバイアグラ保険適用。その裏で緊急避妊薬や経口中絶薬が高額なのはなぜか

「女は能力がないから」という詭弁を元に男だらけの会議で女の中絶についての決定を下したりしてる現状の日本も韓国に偉そうなことは言えない。
「男だと言うだけで能力があることにされている」から選ばれているパターンがどれだけあることか。
そもそも選ばれずにどうやって女は能力を発揮するのか疑問だ。
中国のハニートラップにひかかって国を売るようなおっさん議員がこの国を亡ぼすんじゃないかと割とマジで思ってる今日この頃だ。

性交同意年齢がいまだ13歳以上というのも女性議員が多ければとっくに変わっていると思う。
女性軽視、女性差別は個人より先に政府や国全体の意識から改革しなきゃどうにもならん。

本の感想と離れてしまったけど、映画化もされているらしい。
続編が出てるので買おうと思ってる。

被告A/ 折原 一

あらすじ
東京杉並区で起きた連続誘拐殺人事件は、死体に残されるトランプの絵柄から“ジョーカー連続殺人事件”と呼ばれた。
田宮亮太は、自供により被告として法廷に引き出されるものの、一転して無罪を主張し、逆転の秘策を練る。
一方では新たな誘拐事件が発生し、息子を取り戻すために、一人の母親が孤軍奮闘をしていた。
姿を見せない真犯人はどこに?そして、事件の真相は?驚くべき結末が待つ新趣向の誘拐&法廷ミステリ。

『覆面作家』などおなじみ、叙述トリックがお得意の作家折原一。

読むたびに「合わないなぁ…」と思うw
ミステリ好きなのに叙述トリックがそこまで好きではない、という私に問題があるのか。

叙述トリックのための叙述トリック小説、なんだよね結局。
だから「いくらなんでもこれは無理筋だろ」という感想になりがち。

連続殺人事件の犯人は田宮なのか?という疑問を抱きつつ笑われ読者は同時進行の誘拐事件にも注視してるわけだけど…。
この二つの出来事をどうつなげていくの?という大きな期待に応えてくれるかと思いきや、びっくりはびっくりだけど「んなわけねーだろ」と声が出そうになった。

そのびっくりトリックでさえ、読んで数か月経った今まったく内容を忘れており、数々の他人様ネタバレレビューを漁ってみてようやく「あ、そうそうこういうオチだったよね」と思い出す始末。

つまりその程度の小説。(酷い締め方)

死者の鼓動/ 山田 宗樹

あらすじ
医師の神崎秀一郎の娘で、重い心筋症をわずらった玲香に、脳死と判定された少女・社洋子の心臓が移植される。その後、手術関係者の間で不審な死が相次ぎ、秀一郎に社洋子と名乗る者から電話がかかってくる。電話の相手は誰なのか、そしてその目的は―。臓器移植という難問に果敢に挑戦する人々の葛藤と奮闘を描いた医療ヒューマンミステリ。

なかなか面白かった。
サクサク読めたけど後半駆け足すぎて、心臓移植を受けた玲香の心情がいまいち伝わってこない、ここ大事なとこなのに。

洋子の母の気持ちも、玲香の母の気持ちもわかるけど、双方の立場が違い過ぎて結末が見え見えだったな…。

あと、この小説は軽率に「自殺」を使いすぎる。重みがないんだよね。

でも救命救急医の内海はいいキャラしてたから、彼を主役にしたシリーズものなんて書いてほしいな。
医療ミステリっていうか、救命病棟24時的な?

潔白/ 青木俊

あらすじ
30年前に小樽で発生した母娘惨殺事件。
死刑がすでに執行済みにもかかわらず、被告の娘が再審を請求した。娘の主張が認められれば、
国家は無実の人間を死刑台に追いやったことになる。司法の威信を賭けて再審潰しにかかる検察と、
ただひとつの真実を証明しようと奔走する娘と弁護団。
「権力vs.個人」の攻防を迫真のリアリティで描く骨太ミステリ小説。

ノンフィクションのような小説。
硬派でシリアスだが面白さという意味ではそうでもない。

人権派弁護団が死刑執行阻止の手段としてもよく用いる「再審請求」
しかし本書ではその再審請求中に死刑執行という前代未聞の事態が起きる。
そうまでして権力が隠蔽したかったものとは何か…という重いテーマ。

様々な協力者の手を借りひかるは奮闘する。
しかし、検察は何でも出来てしまう。本当に恐ろしい。

とても読み応えがあるんだけど少し残念なのは、これだけ社会を揺るがすような出来事が重なっているのに世の中の反応が一切出てこない。

そんな大げさでなくてもいいから、密室劇のようなスケールで書くのはもったいないというか、いくら硬派な社会派小説でも地味すぎないか?

現実だってこんな再審請求に誰も興味は示さないよ、と言われたらまぁそうなんだけど、小説だからなぁ…。

あと、真犯人の存在に興ざめした。

たかが殺人じゃないか(昭和24年の推理小説)/辻 真先

あらすじと解説
昭和24年、去年までの旧制中学5年生の生活から一転、男女共学の新制高校3年生になった勝利少年。
戸惑いの連続の高校生活を送る中、夏休みに不可解な二つの殺人事件に巻き込まれる――。
勝利は、那珂一兵の助けを借りながら、その謎に挑む!

著者自らが経験した戦後日本の混乱期と、青春の日々をみずみずしく活写する、
『深夜の博覧会 昭和12年の探偵小説』に続くシリーズ第2弾。

この本も読書好きの間で話題になっていた本。
【ミステリランキング3冠! 】
*第1位『このミステリーがすごい! 2021年版』国内編
*第1位〈週刊文春〉2020ミステリーベスト10 国内部門
*第1位〈ハヤカワ・ミステリマガジン〉ミステリが読みたい! 国内篇
という注目度の高い小説だったわけだが…。
まず著者の辻 真先が現在90歳という衝撃の事実。
出版当時は88歳ってことでかなり話題になってたわけです。
だから私の読む前に「お爺ちゃんが一体どんな小説を書いて絶賛されてるんだろう」という邪心混じりだった。
なので無意識のうちに変な粗探しをしてしまったかもしれない。

まず解説にある『深夜の博覧会 昭和12年の探偵小説』とやらを知らないんだけど、こっちを先に読んでた方がよかったのかな…今さら言ってもしょうがないんだけどね。

すっごく嫌だったのは、中学生の仲良し男女メンバーの一人が「勝利(かつとし)」だったこと。
自分の親戚のおじさんもこの名前だったから別におかしくはないんだけど、小説の中で文字としてこの名が出てくると「勝利(しょうり)」と間違えちゃって、
彼が登場したり台詞を言うたびに私は読み間違えてて、すっごく地味にずっと苛々してたw
あと昭和24年だから時代を感じるのはいいとして、その時代の良さは全然出てなかったと思う。

女性教師がボーイッシュでかっこいいのも「こんなお爺ちゃんがこんなキャラを書くのか」という驚きと感心が勝ってしまっていまいち集中できないw
まぁこれは私が読書家としてまだまだ未熟なんだろうな…。

ストーリー展開も退屈でなぁ…。
でもそれは私が「未成年が主役の話があまり好きじゃない」ってのが大きな理由かもしれない。
子ども同士の会話は小説になるとまどろっこしい。

とかまぁ色々微妙だな~って気持ちで読んでたので、オチの部分、見事伏線回収してるのに「あ…そうだったんだ」くらいの反応しか出てこなかった。
多分、私の邪心が全て悪い。
他の人は面白く読めると思う。特に学園ものとか好きな人には向いてるんじゃないかな、爽やかだし。

チェスナットマン

セーアン スヴァイストロプ (著), 高橋 恭美子 (翻訳)

あらすじと解説
コペンハーゲンで若い母親を狙った凄惨な連続殺人事件が発生。
被害者は身体の一部を生きたまま切断され、
現場には栗で作った小さな人形“チェスナットマン"が残されていた。
人形に付着していた指紋が1年前に誘拐、殺害された少女のものと知った
重大犯罪課の刑事トゥリーンとヘスは、服役中の犯人と少女の母親である
政治家の周辺を調べ始めるが、捜査が混迷を極めるなか新たな殺人が起き――。

Netflixドラマ原作の絶賛北欧ミステリー!
〈ニューヨーク・タイムズ〉〈カーカス〉〈ライブラリー・ジャーナル〉ベストブック・オブ・ザ・イヤー選出!
バリー賞新人賞受賞!

800ページ一気読み!
Netflixでドラマ配信されてるらしいけど映像だと結構エグそうだよね…。

残酷な拷問による母親連続殺人事件、それ自体はありきたりなんだけど先が全く読めずスリリングだった。

トゥリーンとヘス、あまり良い空気で捜査できていないこの二人が徐々に信頼し合っていくのはおきまり展開ながら嫌いじゃない。

目まぐるしく場面転換していくんだけどそれがうまいんだよね、どうやら著者は脚本家らしい。
スピード感があって良かった。
ただ、一つだけ。
犯人の行動原理がどうにも納得いかない。
殺人事件ってそこものすごくすごく大事だと思うんだよね……。

過(あやまち)/ 水月 佐和

あらすじと解説
夏休み。夫・高貴の田舎へ帰郷していた元監察医の夕子が目を離した一瞬の間に、愛娘の由利は、突如として姿を消した。警察と村人による大捜索、連日のマスコミ取材。しかし、由利が見つかることはなかった。そして、夫も夕子のもとを去って行く。由利と高貴を失ったあの夏の日から2年―。監察医として再び職場に復帰した夕子のもとへ、「高貴の実家近くの家が家事で全焼し、床下から子供の白骨死体が見つかった」という警察からの連絡が入る。白骨死体は、はたして由利のものなのであろうか?

この作家さん、調べたらこれともう二冊、つまり三作品しか本を出してない!何故だ!
勿体ない…すっごく面白かったのに。
なんでなんだ……。

結構悲しいストーリーで重い。
白骨死体の真実も悲しいしそこに至るまでも悲しすぎる。
子どもがいなくなった理由はまさかのまさかだし、それを画策したあいつは稀に見るとんでもないクズだし。
これって皆知らないだけで、「ほんの数分の間に子どもが消えた」系の事件でこういうのってあるんじゃないの…?と思わずゾっとした。

だって子を失って離婚する夫婦もいるじゃん?
そうなると、その先永遠に子どもが帰ってこなくても、もしくはどちらかが見つけたとしても隠していれば片方の親は知らないままってことにならん?
そうでもないのか?いや、どうなんだ??

関係なさそうな女の登場とそのインパクト、その女のインパクト、一見バラバラの要素がつながっていく様はお見事だった。
そこそこ複雑なストーリーだけど一気読みだよ…。
ファンになりそう。
でも全然有名じゃないんだよねこの小説。こうして埋もれてる面白い本ってのはまだまだありそうだ。

ブレイクニュース/ 薬丸 岳

あらすじ
ユーチューブで人気のチャンネル『野依美鈴のブレイクニュース』。児童虐待、8050問題、冤罪事件、パパ活の実情などを独自に取材し配信。マスコミの真似事と揶揄され、誹謗中傷も多く、中には訴えられてもおかしくない過激でリスキーな動画もある。それでも野依美鈴の魅力的な風貌なども相まって、番組は視聴回数が1千万回を超えることも少なくない。年齢、経歴も不詳で、自称ジャーナリストを名乗る彼女の正体を探るべく、週刊誌記者の真柄は情報を収集し始める。すると以外な過去が見えてきて……。

連作短編なので読むのを躊躇してたんだけど、薬丸先生だしやっぱ読んでおくか……ってことで。
あと、SNSを題材にした小説はあまり好きじゃなくて…。
若者が書くそれを読んだことはないがおそらく若者視点で、当然ある程度中年が書くとちょっと微妙な内容になる予感がする。
要はSNSのリアル感が欠けて「報道で観るSNSの世界」という書き方をするんじゃないか…という懸念。
冷めちゃいそうなんだよねなんか。
ドラマ『アバランチ』もそうなんだけど、やっぱりストーリーが軽くなる。

で、今回は「胸の谷間で視聴者を釣る女性Youtubeキャスター美鈴」というなんとも微妙なキャラが主人公なんだけど、
まぁいわゆる世直し人みたいな。

パパ活、パワハラ、誹謗中傷、罪の隠蔽……などなど、流行りのテーマテンコ盛り。

ただ、美鈴には秘めた信念があった。
ここが薬丸節。

サクっと読めちゃう軽い内容ではあるし、どの結末も甘々で相変わらず著者の優しさ全開だなーと思って読んでた。
なんだかんだでこんなの書く薬丸先生めっちゃ好きだわ。

告解/ 薬丸 岳

あらすじ
深夜、飲酒運転中に何かを撥ねるも、逃げてしまった大学生の籬翔太。翌日、一人の老女の命を奪ってしまったことを知る。
罪に怯え、現実を直視できない翔太に下ったのは、懲役四年を超える実刑だった。
一方、被害者の夫・法輪二三久は、ある思いを胸に翔太の出所を待ち続けていた。贖罪の在り方を問う傑作。

今迄も散々書いてきたことだけど、薬丸岳は血液中の半分は優しさ成分で出来てます、というくらいこの方は優しい。
これも何度も書いたけど、だからこそ物足りなく、だからこそまた読みたくなるのである……うん。

飲酒運転で81歳の老女を轢き殺してしまった20歳の青年翔太。
まずこの事故がとてもリアル。
事故に至るまでの軽率な思考もまたリアル。
まさに20歳のそれ、だなと。
親想いで捨て猫を拾う普通の優しい青年が事故を起こし、人を死なせそして刑期を終えても尚真の反省に辿り着かない状況、自己憐憫の強さ、これまたリアルだった。
そして被害者が81歳というところがまたよく考えられた設定だな…と。

我々も日常的に感じていないだろうか。
痛ましい事故の報道に、「あ、でも子どもじゃなくてまだよかった…」とか「被害者が若い子じゃなくてまだマシだな」とか。
老人が老人を撥ねたニュースなんて見た日には「まぁ…うん…そうか…」みたいな。
最低なんだけど人間ってそんなもんだと思う。

自分の置かれた状況を把握し環境に馴染むために被害者遺族の思いを恐怖としてしかとらえられない。
刑期をまっとうした自分への理不尽な怒りとしてしか受け止められない、これは決して他人事ではない感情だと思う。

しかし、私は今回も薬丸岳お得意の「被害者と加害者の思い」というシンプルなテーマで最後まで行くと思っていたので、ラストまで読んでその意外さに少し驚いた。
単純に「被害者遺族との関わり方」という話ではなかったんだよねこの小説。

81歳の妻を失った夫の秘めた想いと贖罪。
今回はやや変化球だった薬丸小説、地味な決着には物足りなさもあれど、やはり著者の愛と優しさを感じさせてくれた…。

罪火/ 大門 剛明

あらすじ
レトルト食品工場に勤める若宮は鬱屈を感じていた。花火大会の夜、少女・花歩を殺めてしまう。花歩は母・理絵とともに、被害者が加害者と向き合う修復的司法に携わり、犯罪被害者支援にかかわっていた。13歳の娘を殺された理絵のもとに、犯人逮捕の知らせがもたらされる。しかし容疑者の供述内容を知った理絵は真犯人は別にいると確信。かつて理絵の教え子であった若宮は、殺人を告白しようとするが…。驚愕のラスト、

読めば疲労感タップリw
まさかの結末を見せてくれた叙述ミステリ。
13歳の娘花歩を殺したのは自分が信頼していた元教え子だった…という事実、これははじめから読者にはわかってることなんだけど、当然ながら花歩の母親理絵は知らない、もどかしい。

一見犯人像が荒唐無稽と思いきや…変な方向に頭が良すぎて自分を客観視できないが故に、自滅の道を選んでしまう…そんな、現実にいそうでいなさそうでやっぱりいそうな男。
そう考えると教え子として優秀だと信頼し続けた理絵の観察眼は間違っていたとは言い切れないわけで…。
なんとも皮肉なもんだな…。

警察は何してんだ、とちょっと思うんだけど、とりあえずあんなトリック見破る理絵がすごすぎる。

白鳥とコウモリ/ 東野 圭吾

あらすじ
遺体で発見された善良な弁護士。
一人の男が殺害を自供し事件は解決――のはずだった。
「すべて、私がやりました。すべての事件の犯人は私です」
2017年東京、1984年愛知を繋ぐ、ある男の"告白"、その絶望――そして希望。
「罪と罰の問題はとても難しくて、簡単に答えを出せるものじゃない」
私たちは未知なる迷宮に引き込まれる――。

うまい!
さすが東野圭吾。
この入り組んだ人間関係とストーリーをサクっと読ませてしまう。
しかも人間描写がこれまたうまい。
文章もうまい、情景が浮かびやすい。

そしてキャラ造形がほんとーにうまい。
殺人を自供した犯人を父に持つ男と、被害者の娘。
どうしたって混ざり合うことがない2人が自然に近づいていくこの展開への持って行き方がうまい。
小料理屋の親子の存在感もイイ。

うまいうまいしか書いてないけどやっぱりこの人はうまいなぁ…。
テーマは重いのに軽い、読んでもすぐ忘れる内容、これもまたいい。
重いテーマを軽く読ませる、これが好きなんだよね。
ただ、当然余韻もないw

分厚いけど一気読みできちゃう、これぞ東野圭吾だな。

砂の家/ 堂場 瞬一

あらすじ
殺人犯の父を、許せるか?警察小説の旗手が、家族の限界を描くサスペンス!
大手企業「AZフーズ」で働く浅野健人に、知らない弁護士から電話が。
「お父さんが出所しました」健人が10歳のとき、父親が母と妹を刺し殺して逮捕された。
以来「殺人犯の子」として絶望的な日々を過ごしてきたのだ。
もういないものと、必死で忘れてきたのに。
父の動向を気にする健人だが、同じ頃AZフーズ社長・竹内に、社長個人の秘密を暴露する脅迫メールが届く。
竹内から息子のように信頼される健人は解決役を任されるが……。

うーん…母と妹を殺した男を父に持つ兄弟、兄の健人は幸運に恵まれ大手企業社長の援助の元、見事に人生を立て直すことが出来たが弟正俊は典型的なヤサグレ野郎に…。

脅迫された社長を守ろうとする健人の気持ちはまあわかるんだけど、どうにも読み進めていくほどこの主人公から気持ちが離れていく。
人としての温もりを感じないのはまぁ複雑な家庭環境と悲惨な事件があったから…というリアリティを出す為なのかもしれないけど、
小説としてはそれだけだと感情移入できない。
最終的にとんでもない手段で社長を守るのだが…そこは意外性がかなりエグイ方法を思いついたもんだな…とと思ったけど、この社長が結構アホで、
そこまでして守る価値あるのか??っていう…。
で、健人はここまで人の手を借りて人生立て直したのに周囲への感謝(社長に限らす出会った人達)が足りないと思った。

それがリアルなのかも…とはいえ面白さを半減させてる気がする。勿体ない。

スクラップ・アンド・ビルド /羽田 圭介

あらすじと解説
「じいちゃんなんて早う死んだらよか」。ぼやく祖父の願いをかなえようと、孫の健斗はある計画を思いつく。自らの肉体を筋トレで鍛え上げ、転職のため面接に臨む日々。人生を再構築中の青年は、祖父との共生を通して次第に変化してゆく―。瑞々しさと可笑しみ漂う筆致で、老人の狡猾さも描き切った、第153回芥川賞受賞作。

又吉直樹の『火花』と共に当時話題になっていた芥川賞受賞作品。
この小説の良いところは「短いところ」かな…としか人に言えない、そんな小説だった。
とにかくページ数が少ないのでサクっと終わった。

つまらないわけではない、まぁそれだけでも文学作品としてはいいのかもれない。
文学っておもしれー!ってものがほぼないよね。

自宅警備員悶々日記、とでもいうのかな。
祖父の介護?というか、ちょっとお世話したりしなかったり、母子家庭+爺さんという共同生活のリアルさは伝わってきた。
寝たきり老人ではないので介護の壮絶さ、とかその類の話ではないんだけど、ちょいちょいイラついてる主人公やいつもキレてる母親に共感するところが多々ある。

とても控えめだけどチラ見えする爺さんの図々しさや我儘さなんかがすごくリアル。
優しいとか優しくない、では分類できない健斗のキャラもこれまたリアル。
そして健斗の恋愛模様や自己評価がまさに「冴えないけど最底辺とまではいかない微妙なプライドの高さと女性軽視を持つ若い男のリアル」を見事に表現していて、かなり気持ち悪いw

何を伝えたいのかはいまいちよくわからなかった。
まぁラスト就職が決まって家を離れる健斗は成長したよーってことなんだと思う。

この手のあっさり目文学は心に何も残らないな、と改めて…。

22年目の告白-私が殺人犯です/浜口 倫太郎

あらすじ
書籍編集者・川北未南子の前に突如現れた美しい青年・曾根崎雅人。彼から預かった原稿は、巧みな文章で綴られ、彼女を魅了した。しかし、そこに書かれていたのは、22年前に実際に起こった連続絞殺事件、その犯人による告白だったのだ。『私が殺人犯です』と題された本はたちまちベストセラーとなり、曾根崎は熱狂を煽るかのように挑発行為を続ける。社会の禁忌に挑む小説版『22年目の告白』。

実写映画化したらしいが、曾根崎が藤原竜也って違くないか?
日本は俳優不足なの?
藤原竜也超絶美しい青年って思ったことないんだよなぁ…どちらかというと可愛い系の人だよね?
原作の曾根崎って絵にかいたような見た目と雰囲気が完璧な男なので、まぁタイプは違うが亡くなられた三浦春馬や新田真剣佑あたりのイメージなんだよな。

それはまぁいいとして、なかなか意外な展開が面白かった。

読みやすい文体でエンタメ性も高く、実写化されるのも納得、なんだけど、細かい表現が稚拙で人物の掘り下げが浅く、心理描写も甘いかな…と。
なのでガツンと心に響かなかったかも。
一気読みできる勢いと面白さはあるし、シナリオはお見事でラストも爽やか、後味も良い。だからこそちょっともったいないなって気がした。

声なき叫び/小杉 健治

あらすじ
自転車で蛇行運転をしていた青年が警察官に捕まり、取り押さえられているときに死亡した。
警察官の暴行を目撃した複数の人間がいるにもかかわらず、警察は正当な職務だと主張する。
水木弁護士が警察を相手に法廷に臨んだのだが、裁判は著しく公正を欠く展開となった。
水木は最後の賭けに出る。

さすが小杉健治!読ませるね…。
遺族、弁護士、記者が警察、検察と闘うという展開はベタながらやっぱり燃えるな。

強大な権力の前に人は無力で、権力者はどんな隠蔽や脅迫も可能だという現実社会でも起こっている腐敗への怒りがわく。
マジであまりの汚さに手が震えるレベル。

だが、途中まで誰よりも正義漢に燃えていたのに、立場を変え証言を拒否した女性や、証言内容を変えた多くの人の行動は、とても軽々しく批判できるものではないな…と。
自分だったらどうするだろう、そう思いながら読み進めていった。
さすが小杉健治……でも、ラストが尻切れトンボなんだよね。
狙いがあってのこと、とはわかるんだけどやっぱり最後はスッキリさせてほしかったな。

保身/ 小杉 健治

あらすじ
殺人犯が現場から逃走するときに目撃したのは、県警幹部が犯した轢き逃げだった。県警側は幹部を庇い、殺人事件の捜査すらも、捻じ曲げようと画策する。その事実を知った殺人事件の担当刑事が苦悩の末に出した結論は!? 守るべきは正義か、組織か!?

同日に起きた強盗殺人と、未来を約束された警視庁キャリアによる轢き逃げ事件、もうこのスタートからして面白いこと確定って感じなんだけど、小杉健治作品は前からちょこちょこ読んでて、
多分消えてしまった昔昔のブログにも何作品か感想を書いてた気がする。
安定して面白くて、派手さはないけど警察とか法廷とかその手の話を書くのがうまい作家さん。

今回も、警察幹部の隠匿工作がもう稀にみる汚さだったな…。
一つの罪を隠すために積み重なっていく嘘、犠牲者にのしかかっていく負の連鎖に呆れてしまう。
ただ、そこまで重さはない。
薬丸岳作品と同じで、心の逃げ場があるというかテーマは重いけど軽い、とでもおいうんだろうか、それが好きか嫌いかは人ぞれぞれだけど私は好き。
重い話をサクっと読みたいんだよね。

とはいえ、ラストは「俺達の闘いはこれからだ!」と夕日に向かって歩き出す、みたいな、まるで少年誌の打ち切り漫画のような演出で、ズッコケそうにはなったw
でもまぁあそこで幕引きしたところで読者としてはそれまでの話の流れ的に「ああ、この後こういう展開でああなるんだろうな」という想像は充分できるのでこれはこれでいいんだろうね。

クドくなる前に終わった感じw

公安狼/ 笹本稜平

あらすじ
あの男に、極刑を含む可能な限りの刑罰を与えてやる――。
唐沢龍二は、恋人の吉村久美子に誘われて大学の奇妙な会に入る。会の名は「グループ・アノニマス」。一見映画論を語っているようでいて、唐沢の理系の知識を利用して爆弾テロを目論む活動組織のようだった。怪しげなアノニマスから距離を取る唐沢はやがて久美子と破局し疎遠となる。
1年後の1998年。東京都西神田のビルで自爆テロが発生した。死亡者でもある実行犯は久美子だという。
アノニマスのリーダー・ハンクスこそが真の実行犯で、久美子は利用されただけだと唐沢は気付くが、いち大学生に地下に潜ったハンクスを捕まえることは容易ではなかった。
やがて、警視庁公安部の捜査官から唐沢に声がかかる。地下に潜った組織壊滅のための切り札として、公安捜査官にならないかというのだ。公安捜査官となった唐沢だったが、アノニマスのスパイという風評や、危うい捜査はいくつもの敵をつくってしまい……。

まず元恋人の久美子を美化しすぎていて、男性が読んだらまた違う感じ方になるかもしれないけど、少なくとも私には龍二が抱く久美子への執着心がいまいち理解できないままだった。
まぁ彼女を救えなかった罪の意識があるのはわかるけど、なんか久美子の魅力がもっと書けていればよかったんじゃ…と思わずにはいられない。

ただ、そこから公安に引き抜かれていくというまさかの展開は珍しさもあって興味深かった。
そして因縁のテロリスト、ハンクスを追う中で敵は他にもいた…!っていう。

そんな流れの中、公安、警備一課、機動隊、SAT、外事、捜査一課二課……がくんずほぐれつ(実際にもみ合ってるわけではないがw)するのもちょっと楽しい。
で、割と地道に犯人を追い詰めていく様子はなかなか面白かった。

ただ、自分でも評価が甘いかな、と思うのはこの本の表紙をとタイトルを目にした段階で、映画でいうB級だな?と言う先入観が生まれてたのでw
その割には面白いじゃないか!っていう好意的な感想になってるんだと思うw
だって、ダサすぎない?この表紙。

罪と祈り/ 貫井 徳郎

あらすじ
元警察官の辰司が、隅田川で死んだ。
当初は事故と思われたが、側頭部に殴られた痕がみつかった。
真面目で正義感溢れる辰司が、なぜ殺されたのか? 息子の亮輔と幼馴染みで刑事の賢剛は、死の謎を追い、
賢剛の父・智士の自殺とのつながりを疑うが……。
隅田川で死んだふたり。
そして、時代を揺るがした未解決誘拐事件の真相とは?辰司と智士、亮輔と賢剛、ふたりの男たちの「絆」と「葛藤」を描く、儚くも哀しい衝撃の長編ミステリ―。

いいです…とてもよかった。
元警官の辰司、誰からも信頼された父親の死の謎と、知られざる過去を探る亮輔。
父である智士亡き後、辰司を父親のように慕い、自分も警察官になった賢剛。
親友であり、家族のような存在の二人が、これまた互いに親友だった父親同士の秘密に、ゆっくりと近づいていく様はなかなか緊張感があり物悲しさを感じた。

昭和の終わり、華やかなバブルの裏で人々を苦しめたもの、それに贖うためもがいた人達の中に辰司と智士がいたわけだが、その他に関わった人達のキャラ造形もお見事で飽きさせない。

真面目であるがゆえにハマってしまった泥沼。
大切な人の苦しみを見て見ぬ振りができず、器用には生きられなかった男たち。
そんな男への愛を抱き続け死者を見守ってきた女の存在。
切なくて悲しくて、やるせなさと懐かしさを感じた。そして、もちろん小説としてちゃんと面白い。
さすがだ。ひとつだけ文句を言わせてもらうなら、ある人物の正体を最後まで読者に見破られないためにとても不自然描写がある。
そこだけがちょっと残念。

慟哭/ 貫井 徳郎

あらすじ
連続する幼女誘事件の捜査が難航し、窮地に立たされる捜査一課長。若手キャリアの課長を巡って警察内部に不協和音が生じ、マスコミは彼の私生活をすっぱ抜く。こうした状況にあって、事態は新しい局面を迎えるが……。人は耐えがたい悲しみに慟哭する――新興宗教や現代の家族愛を題材に内奥の痛切な叫びを描破した、鮮烈デビュー作。

この文庫本が出たのが1999年、まさかデビュー作だったとは…読み終わってから知った。
すごい小説だったよ……まさに「慟哭」
この作家さんの作品は他にも何冊か読んだことあるんだけど、このデビュー作が最高傑作かもしれない…。

連続幼女誘拐殺人事件と新興宗教にのめりこむ一人の男。
一体どういう風に話が繋がっていくのか…とハラハラしながら読み進めていった。

細やかな伏線が鮮やかに回収されるラストは全く予想もしていなかった衝撃の展開。、お見事!
しかし、ショックだ…本当にショック。
こんな悲しい結末ってあるか??
全く救いがない、苦しい。
語彙力を失ってしまうくらいすごい小説だと思う。

冷たい檻/ 伊岡 瞬

あらすじ
日本海沿いにある小さな村の駐在所から警官が失踪した。後任として駐在所に着任した島崎巡査部長の下に、県警本部から送り込まれた調査官・樋口が現れる。警察内で密かに失踪事件を調査することのようなのだが……。過疎の村にふきだまる欲望! 巨大福祉施設に隠された恐ろしい秘密を二人は暴けるのか。そして、樋口の正体とは!? 一気読みの警察小説巨篇!

過疎村に残された巨大福祉施設の闇と訳アリ児童と青年たち、不穏な空気にワクワクしたw
その昔3歳の息子を誘拐され心に深い傷を持つ元刑事、樋口調査官が過疎村の失踪事件を調査するため颯爽と登場する場面もなにやら謎めいていてよかった。

汚い権力者やら外国資本が複雑に絡み合うもそこまでややこしさは感じないかな。
やがて判明する真実はとても悲しい。
過疎村の若手巡査部長島崎と樋口の凸凹?コンビがなかなか微笑ましかったからシリーズ化してもイケそうだけど、まぁめでたしめでたしってことだし続きってのもネタがないよね。
ラストは爽やかで後味が良かった。
伊岡瞬の小説は安定感がある。

スワン /呉 勝浩

あらすじと解説
銃撃テロを生き延びた五人。彼らは何を隠しているのか、何を恐れているのか

第73回日本推理作家協会賞 長編および連作短編集部門 受賞作
第41回吉川英治文学新人賞 受賞作
第162回直木三十五賞 候補作

首都圏の巨大ショッピングモール「スワン」で起きたテロ事件。
死者二十一名、重軽傷者十七名を出した前代未聞の悲劇の渦中で、犯人と接しながら、高校生のいずみは事件を生き延びた。
しかし、取り戻したはずの平穏な日々は、同じく事件に遭遇し、大けがをして入院中の同級生・小梢の告発によって乱される。
次に誰を殺すか、いずみが犯人に指名させられたこと。そしてそのことでいずみが生きながらえたという事実が、週刊誌に暴露されたのだ。
被害者から一転、非難の的となったいずみ。
そんななか、彼女のもとに一通の招待状が届く。集まったのは、事件に巻き込まれ、生き残った五人の関係者。目的は事件の中の一つの「死」の真相を明らかにすること。
彼らが抱える秘密とは? そして隠された真実とは。

圧倒的な感動。10年代ミステリ最後の衝撃!

なんか賞もとってるし候補にもなってるし…凄い業界での評価が高いんだけどとにかく読んでいてあまり気分が良くなかった。
主役?の女子高生があまりにも不憫でなぁ…。
そして現実離れした強さを持ってる(精神面での)のもしっくりこなくて同情はするけど感情移入が出来なかった。

世間も学校も教師もクズばかり。
こういうの読むと著者も性格悪そうだな、と思っちゃうw
一人くらいすごく良い人が出るとそっちが著者の本音に近いのかな?なんて思ったりするもんだけど、この本での女子高生は「男が理想とする、罪を許す聖母マリア」感あるしなw

ショッピングモール内の図が載っててそれを確認しながら小説を読み進めるっていう、密室殺人推理ものなんかを読むときによくやってたやつ、
これ久々だから懐かしさを感じた、面倒くさくもあるけど、それについては少々楽しかった。

真実が判明しても胸糞の悪さが残るお話だった。

護られなかった者たちへ/ 中山七里

あらすじ
誰もが口を揃えて「人格者」だと言う、仙台市の福祉保険事務所課長・三雲忠勝が、身体を拘束された餓死死体で発見された。
怨恨が理由とは考えにくく、物盗りによる犯行の可能性も低く、捜査は暗礁に乗り上げる。
しかし事件の数日前に、一人の模範囚が出所しており、男は過去に起きたある出来事の関係者を追っているらしい。そして第二の被害者が発見され――。
社会福祉と人々の正義が交差したときに、あなたの脳裏に浮かぶ人物は誰か。

これは絶対ネタバレなしで読んだ方がいい、そのくらい最後に「え?」って反応になるw
犯人は途中で気づくと思うけど、その先にあるものには全く気付かなかったな。

映画化されてるらしいのでそっちを観てる人が多そうだけど。

中山七里は、シリーズ化されて人気の『ピポクラテスの誓い』えが私としてはいまいちで、
その後読んだ『総理と呼ばれた男』もそこそこだったので期待していなかったのだが、これが一番好きかな。
社会問題をうまいことエンタメにしてる、ちゃんとしたミステリの面白さがある。

人間の描写もお見事だった。

鵜頭川村事件/ 櫛木 理宇

あらすじ
一九七九年、夏。亡き妻・節子の田舎である鵜頭川村へ、三年ぶりに墓参りにやってきた岩森明と娘の愛子。突如、山間の村は豪雨に見舞われ、一人の若者の死体が発見される。村の有力者・矢萩吉郎の息子で問題児の大助が犯人だと若者たちは息巻くが、矢萩家に誰も反抗できず、事件はうやむやとなる。抱えていた家同士の対立が顕在化し出し、若者たちは自警団を結成する。動き始めた狂気がさらなる狂気を生み、村は騒乱に巻き込まれていく――

いくつかの実在事件を張り合わせたような、どことなく既視感のある小説……といっても田舎の過疎村+殺人、とかって大体同じ雰囲気になるけど。

期待していたより怖さはなかったが結構面白かった。
鵜頭川村出身だった妻はもう亡くなってるけど妻の叔父宅に宿泊するという岩森の微妙な立ち位置もなかなか面倒くさいw

都会では既にオワコン状態の学生運動、その闘士への憧れを抱いた過疎村の青年たちの発起は、更感満載でどこか物悲しく、
故郷から抜け出せなかった若者の鬱屈した思いが老害たちの横暴に立ち向かうべくどんどん暴走する様がなんとも言えない。

私が求めていた閉鎖村独特の陰湿さは良かったけど、ラストだけがアクション激し目、突然不良の格闘漫画を読まされているような…THE 決闘!って感じで、少し戸惑ったなw
これはこれで面白かったけどw

仮面/ 伊岡 瞬

あらすじ
読字障害というハンディキャップを抱えながらもアメリカ留学の後、作家・評論家としてTVで活躍する三条公彦。三条の秘書として雇われた菊井早紀はその謎多き私生活と過去が気になっていた。そんな折、パン店経営者の妻・宮崎璃名子の白骨遺体が発見される。行方不明となった新田文菜の捜査にあたる刑事の宮下と小野田は、文菜と璃名子の不審なつながりに気づく。人気評論家の三条は二つの事件に関わっているのか? 宮下たちは捜査を進めるが――。 ラストまで目が離せない、瞠目のクライムサスペンス!

複数の登場人物それぞれの視点で物語が進んでいくが、文章がうまいので頭にすっと入る。
読み終わってから表紙を見ると、なるほど、怖い、ってなるw

不倫大好き主婦とか子を失って新たに子作りしたいけど旦那にその気持ちがなく、他の男に種を求める女……など色々出てきて人間関係が絡み合っていく。

ディスレクシア(読字障害)という障害と共に、世にはびこる女性差別も書かれているがその織り交ぜ方が絶妙。
次々と凄惨な殺され方をする女たち(その描写も結構痛々しい)
その事件の真相にたどりつく刑事。

この宮下刑事と、先輩である女刑事小野田の距離感がとても良い。
2人のやりとりと宮下の台詞にちょっと涙ぐんだよ。
シリーズ化しないのかな?と思ったけどラストまで読んだら次回作はないか…と残念。

見事に回収された伏線は地味だけどうまい、さすが伊岡瞬!

紙の梟 ハーシュソサエティ/貫井 徳郎

あらすじ
ここは、人を一人殺したら死刑になる世界――。

私たちは厳しい社会(harsh society)に生きているのではないか?
そんな思いに駆られたことはないだろうか。一度道を踏み外したら、二度と普通の生活を送ることができないのではないかという緊張感。過剰なまでの「正しさ」を要求される社会。
人間の無意識を抑圧し、心の自由を奪う社会のいびつさを拡大し、白日の下にさらすのがこの小説である。

恐ろしくて歪んだ世界に五つの物語が私たちを導く。
被害者のデザイナーは目と指と舌を失っていた。彼はなぜこんな酷い目に遭ったのか?――「見ざる、書かざる、言わざる」

孤絶した山間の別荘で起こった殺人。しかし、論理的に考えると犯人はこの中にいないことになる――「籠の中の鳥たち」

頻発するいじめ。だが、ある日いじめの首謀者の中学生が殺害される。驚くべき犯人の動機は?――「レミングの群れ」

俺はあいつを許さない。姉を殺した犯人は死をもって裁かれるべきだからだ――「猫は忘れない」

ある日恋人が殺害されたことを知る。しかし、その恋人は存在しない人間だった――「紙の梟」

はっきり言わせていただく、本作は間違いなく貫井徳郎の駄作だ。
そのくらい、やる気を感じられない。
いや、やる気が空回りしてる。

一話目はいい、かなりエグイ、インパクトもある、ちょっとだけ考えさせられる。
でも、二話目以降は酷過ぎる。

どういう意図で書いたのか知らんけど、物語として面白いものを書こうという気持ちが全く伝わってこなかった。
いつもはすごい作品を生み出す貫井徳郎が…こんな軽い、ニワカ仕込みの死刑制度関連の小説出すなんてガッカリだよ。

死刑制度反対の立場で書くにしても、もっと説得力があるものを書ける人だと思ってた。
まるで昨日突然死刑制度に関心を持った中学生の書いた小説のようで……マジでどうしんたよ…表紙はカッコイイのに。
表紙詐欺じゃないか…。
書店で目をキラキラさせてこの本をレジに持って行った自分を哀れに思う。

何故これだけ駄作と感じるのか…一番の要因は、それぞれのキャラがちゃんと独立してない、血が通ってないってことだと思う。
作者の代弁者だったり、それと対峙する存在、賛同者、傍観者、様々なキャラクターがきちんと歩き出して初めて良質な物語ってのが出来上がると思うんだけど、
この本のお話はどれもこれも、キャラクターが著者の手から離れていない、操り人形のままなんだよ。
だから、「人間ってそんな単純じゃないだろ」と腑に落ちない場面がありすぎるんだよね。

結末へたどり着くために無理やりすぎる行動や発言だらけになってる。
貫井徳郎はこんな安っぽい表現をする作家だったのか?
それとも思いっきり深読みすると死刑制度反対者を馬鹿にしてるのか?
いや、そうとも思えない、なんなんだこの本は…。

そして、さらに重要なのが、より今の現実社会に近い位置にある「IF世界」を書いているはずなのに、まったくリアリティがない。

「人1人殺したら死刑になる世界」はいいとして、「過失でも正当防衛でもとにかく死刑」なんてあり得なさ過ぎて、この世界に私は没頭できなかった。

この本で書かれているのは、死刑という刑罰を単純明快にしたいがために情状酌量も何もない、交通事故だろうがなんだろうがとにかく死なせたら死刑、の世界なわけだ。

何故そんな書き方をしたのかというと、おそらく著者は「厳罰化によってこんなに弊害があるんですよ、こんなに人々は狂ってしまうんですよ」というメッセージだけを伝える目的しか見えなくて、こんな形にしてしまったんじゃないだろうか……。その人々の混乱?もかなり安っぽい。
その目的ならばむしろ、「故意の殺人、計画殺人」に限定した方がよりリアルで考えさせられる内容になると思うんだよね。

もっと読んでいて悩まされうなるような、根の深いものが見たかった。

社会の変化も人々の思考や価値観も、極端に走り過ぎてリアリティがなくなってしまった、それが駄作の悪因かと…。
まぁ駄作と感じるのは私の感性の問題と言われればそれまでなんだけど、貫井徳郎の本をいくつか読んできて、こんなつまらない出来のものが今までなかっただけに、彼の衰えなのか思想信条が物語性に負けてしまったのか知らんが、残念でならない。
この人が死刑を題材に書くならもっと傑作が生まれる、誰もがそう感じてたんじゃないかな…。

とってつけたように絡めてくるSNS問題、虐め問題も上澄をすくったようなレベル。
世捨て人自殺志願者が正義のためにいじめっこに罰を与えていく、とかもチープな漫画っぽくてすごくダサイ。
一人殺したら死刑の世界になると何故自殺志願者が世直しを始めるという結論になるのか。

『慟哭』を書いたのと同一人物の作品とはとても思えなかった、悲しい。

帰らざる復讐者/ 西村寿行

あらすじ
若き医師原田の留守を襲った悲劇‐拳銃で撃たれて血の海に横たわる父。
凌辱を受けて殺された妹。恋人までもどこかへ連れ去られた。南海の孤島‐日本‐アラスカ…報復心に燃え原田は追う。(葛木 坐)

1979年の本、古い!!!!
なんでこれ読んだのかというと図書館に棚に置き去りにされてたからなんだよね…。
リユース文庫ってあるじゃん?不要になった本を図書館に持って行くと、定期的にお持ち帰り自由の本棚にそれが並ぶって言う。

多分それ持ち帰って読んだ人が、いざ戻そうにも、そのタイミングにちょうどリユースお持ち帰り自由本棚が置かれてない期間だったから戻せなくて、面倒だから普通の貸し出し用本棚に並べたってこと。
ああ…可哀そうに…と…図書館の人に一応声かけて貰ってきたw

もうね…すごく古いw古臭いww
横溝正史とか古さをあまり感じさせないけどやっぱ都会が出る話だとこの耐え難い古臭さ、どうにもならんねw

これは古さは関係ないかもしれないけど、台詞が癖強すぎて…。
「〇〇しているのだ、お前はどうなのだ?」とか「俺も今そう思っていたところなのだ」ってwww
奇面組の一堂零くんじゃないんだからさ…(懐かしいw)

めっちゃハードボイルドやりたかったんだろうけ、なんかレイプ場面あるな~と思ったら、その後も突然ホモレイプまで始まるし、っていうか絶対レイプ好きだなこの作家は。

米軍とかCIAとか出しておけばスケールでかくなると思ってるのもありありと伝わってくるw
主人公は全然パっとしないのにラストだけハリウッド映画みたいに無双するのもまたぶっとんでる。
読んでて恥ずかしかった。

こんな風にボロクソ書いてるけど、実はこの作家の『監置零号』という小説が私の本棚に眠ってるという恥ずかしい事実は書いておかねばなるまい……w
未読なんだけど、冒頭から文章に馴染めなくてやめちゃった本なんだよね。
相当相性悪いんだな。
でもこの人かなり作品出してて、amazonレビュー見たらレビュー数は少ないが総合評価は割とどの本も良かったりするので、一定数のマニアに支えられてる作家さんなんだろう。

紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人/歌田 年

あらすじと解説
どんな紙でも見分けられる男・渡部が営む紙鑑定事務所。ある日そこに「紙鑑 定」を「神探偵」と勘違いした女性が、彼氏の浮気調査をしてほしいと訪ねてくる。
手がかりはプラモデルの写真一枚だけ。ダメ元で調査を始めた渡部は、伝説のプラモデル造形家・土生井(はぶい)と出会い、意外な真相にたどり着く。
さらに翌々日、行方不明の妹を捜す女性が、妹の部屋にあったジオラマを持って渡部を訪ねてくる。
土生井とともに調査を始めた渡部は、それが恐ろしい大量殺人計画を示唆していることを知り――。

第18回『このミステリーがすごい! 』大賞・大賞受賞、読書メーター「読みたい本ランキング」第1位(単行本部門 月間(2020年1月6日~2020年2月5日))の作品

ちょっと珍しいタイトルに惹かれて買った本。
著者の歌田年はこの紙探偵シリーズ2冊しかまだ出してないようで、2020年・第18回「このミステリーがすごい! 大賞」大賞を受賞して話題になったみたいだ。

私の持っているこのミス本には載ってなかったんだけどな…何故だ?

さて、この物珍しい小説、著者は紙に関するマニアックな知識をいかんなく発揮し、読者に披露する目的で書いたんだろうな……と思う場面がしばしば。
呑気で人の好い主人公渡部が紙について結構語るw
ひょんなことから縁があり協力をあおいだ土生井とのやりとりもとっても和む。
プラもや模型の蘊蓄も出てきてまったく興味がないため、フーン…と適当に読んでいたら最後の最後に結構エグイオチがあって、
こののどかな雰囲気で出してくるラストじゃねえだろ、と思っちゃったよ…。
この人にガッツリシリアスなミステリ書かせたら結構すごい作品になるんじゃないの??

紙鑑定士の事件ファイル 偽りの刃の断罪/歌田 年

あらすじ
野良猫虐待事件をフィギュア造形の蘊蓄で解決し、父を喪った少年の心を印刷業界の蘊蓄で開く。さらに、凶器が消えた奇妙な殺人事件の謎を、コスプレの知識で暴く! ? 新たな相棒・フィギュア作家の團(だん)と共に、紙鑑定士・渡部がさまざまな事件に挑む。3つの紙の蘊蓄が楽しめる連作短編! 『このミス』大賞シリーズ。

サクっと読める短篇集。
続編だけどこっちだけ読んでも理解できる軽い内容。
前作のような結構パンチの効いたオチはなかった。
土生井がスマホマスターしたり、細かいことたくさん渡部から教わった前作に続き活躍してくれる。
新たな協力者も現れ、土生井にまさかの意外な幸福も訪れてちょっとびっくり。
本作はフィギュアやコスプレの蘊蓄も出てきてマニアックさは健在。
前作に登場した石橋刑事も出てくる。
軽いミステリが読みたい人向け。

読書感想