Novel

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哀艶の森

未完
※ベジータは物語のラストに出てくる予定です
※R18、腐描写、残酷表現などアリ

(1)

塗炭屋根の隙間から漏れる淡い光が少年の頬を照らした。
狭いベッドで仰向けになり、今宵も少年は月に祈りを捧げる。

「月よ、どうか私と両親の罪をお許しください」

14歳の少年が、物心ついたときから続けてきた祈りの言葉だった。両手脚に巻きついた鎖は部屋の四隅に立つ錆びた鉄棒に繋がれ、一糸纏わぬ軀を守るものは夜の闇だけだ。
少年の頬を涙が伝う。いつの間にか一組の中年男女がその姿を眺めていた。少年を見下ろす眼差しに慈悲の欠片もない。二人とも、いつもの来訪者と同じく、他と見分けのつかない普通のナブール人だ。
女は少年の未発達な陰茎を手の平で無遠慮に掴むと、鈴口に涎を垂らしネチャネチャと塗りたくった。男は、羞恥と快感に身を捩る少年の鼻をつまみ、強引に口をこじ開け膨張した己の肉棒を突っ込むと激しく腰を前後させた。少年はこみあげる嘔吐感と押し寄せる快感に耐える為全身に力をこめた。女の指がヌチャヌチャと音を立て少年の陰茎をこねくり回し、男は少年の頭を掴み自分の腰の動きに合わせて乱暴に揺さぶった。
男女の動きのリズムがピタリと重なった瞬間、少年と男は同時に精を放出した。女に扱かれながらも急傾斜を保っていた陰茎のせいで、少年はサラサラとした毛髪を自身の精液で汚してしまった。
男の痙攣はなおも続き、硬く鍛え上げられた臀部を何度も少年の顔面に叩きつける。少年の口内で男の精液はしつこく跳ね回り、若い喉粘膜に絡みついた。

—―昨日の男より臭くないな。

少年は己を守るため意識を外へ向けてみたが、喉奥に絡まった精液でむせ返ってしまい、うっと男がうめいた。
男の肉棒に歯を立ててしまったようだ。少年は頬に強烈な張り手を浴び、切れた唇から血が溢れた。
「勿体ない勿体ない!」
女が慌ててその血をすする隙に、男が少年の足枷を外し、両足首を掴み股が裂けるほど広げ、丸見えになった少年の肛門に涎を垂らした。ナブール人の唾液には催淫効果があると言われている。7年前、少年の純潔を奪った年老いた村長が教えてくれたが、真実かどうかは定かではない。男は再び膨張した肉棒の先をヌルヌルと回転させ、少年の肛門を潤し、そのまま一気に貫いた。女に口を塞がれたまま少年がぐえっ!と奇声を発した。男のピストンに合わせ、女の舌が少年の口内をねぶる。再び硬くなった少年の陰茎を膣内に招き入れるため、女は少年の舌を支配したままガニ股でベットに乗り上げた。男は上半身を反らし、女に空間を譲りながらますます激しく腰を振る。女は少年にまたがり、陰茎を手で直立させ、ヌルンと腰を落とした。既にドロドロの膣道が少年の陰茎を奥深く誘い込んだ。ドロドロの愛益と絡まった少年の陰茎が女の膣壁と激しく擦れ合う。
「うあああぁあ!!!」
少年の悲鳴に興奮した女は前後上下と腰を振りながら思い切り彼の舌を吸った。
「あぐぐ!!!」
「おぅっ!!尻穴が締まってきたぞ、生意気な小僧め!!!」
男が乱暴に腰の角度を変えた。
「ど、どうかこれ以上激しく掻き回さないでください。昨夜の償いで肛門が切れております」
「黙れ!!!」
少年の哀願に怒った男はよりいっそう強く腰を打ちつけた。
「うひぃ!!」
戦慄く少年の姿に興奮した女は絶頂を求めて醜い尻をさらに激しく上下させる。
「いくぞっ!罪人の中にタップリ出してやる!!」
男が叫ぶと、女が少年の乳首をつねり、少年は快感と苦痛に顔を歪めた。
「うわぁはぁっ」
「下品な声を出すな!」
男の爪が少年の足首に食い込むと同時に、少年の尻奥に男の熱いものが流れ込んだ。気が付くと女が絶頂を迎え、少年の腹の上でのけぞっていた。少年の精液が膣壁のうねりに搾り取られ、女の子宮に勢いよく注がれる。少年の体がビクンビクンと波打ち、そのまま気を失った。

私はとても醜い。その上、両親は禁戒を破った罪で、私が産まれてすぐに処刑されたのです。
残された私は償いの日々を送らねばなりません。月よ、どうか私と両親の罪をお許しください。
そして、願わくば、この醜い姿を変えてください。その為ならどんな仕打ちも耐えてみせます。

「ふむ……これは興味深いですねぇ。惑星ナブールの少年ですか…」
大宇宙の帝王は側近の報告に首を傾げた。
「はい、若干14歳、どうやら産まれてすぐに監禁され、7年前から償いを続けておるようです。とは言いましても、単なる村公認の性奴隷というだけですが……」
「彼が慰み者かどうかは問題ではありません。私が気になるのは戦闘力です。計測結果は正確ですよね?」
帝王は側近を睨んだ
「おそらく……。ですが、直接の計測ではなく、ある程度の距離があった為、正確さに欠く可能性もございます。もしきちんとお調べしたいのでしたらやはりナブールの地に降り立つべきかと」
「うーん…あそこの惑星は気が進まないんですよ、わかりますよね?」
「はい、それは重々承知しております。しかし……もし戦闘力の数値に嘘がなければ、このような逸材見逃す手はないかと」
側近は汗を拭いながら上目遣いで帝王の表情を窺う。
「わかりました。監視を続けてください」
帝王が満面の笑みをたたえて頷いた。
「はっ!かしこまりました!」
帝王から無言の圧を受けた側近は、最敬礼したのちそそくさと退室した。
この巨大な宇宙船には現在およそ3000人の部下が乗っている。
帝王の機嫌を損ねれば最悪その場で処刑されてしまうことを船内の誰もが知っていた。


(2)

「この惑星は地表面積に対して居住できる環境の土地が極端に少ないんだ」
ベッドに腰かけた若い男が少年にささやいた。
「そう……ですか。知りませんでした」
「だよな……産まれてからずっと此処に閉じ込められているんだから、当然だ」
男は慈悲深い眼で少年を見つめた。窓も無く分厚い岩で覆われた壁と、僅かな光が差し込む塗炭屋根の粗末な住処を訪れるのは、交代で少年に最低限の食事を届ける者か、少年を凌辱する者しかいない。だがこの男は違った。どうやら今夜初めて少年の前に現れたようだ。他の村人と姿は似ているが、償いの行為を求めてこない。ただ静かに語りかけてくる。
「お前を助けたい」
男が突然危険な言葉を放ち、少年は青ざめた。
「誰かに聞かれたら貴方は殺されます、私もです」
「わかっている、だが可能なんだ。お前が逃げる方法がやっとわかった」
男は少年の肩を強く掴んだ。
この人は何を言っているんだろう。少年は恐ろしかった。今まで一度たりとも逃げ出すことなど考えたことがなかったからだ。とにかくこの姿に生まれ、村人を苦しめた己の罪と、その元凶である両親の過ちの許しを請う為だけに今日まで生きてきたのだ。勿論死んでしまいたい程辛いことに変わりはないが、逃げ出すことは罪を重ねるだけだとも教え込まれてきた。これ以上罪を重ねることは出来ない。
「貴方は間違っている、私はそんな卑怯者にはなりたくないのです。何年も罪を償ってきたのに何故今ここで逃げ出すことができましょうか。」
「違う、お前は罪人などではない!まずその教えは全て間違っている、それを知ってほしい。頼むから俺の言葉に耳を傾けてくれ」
男はまるで祈るように言った。
「お前の父親は確かに、この地に不時着した他種族の女と契りを交わしてしまった。そして……女は……母親は隠れてお前を産み落とした。だがお前に罪はないんだ」
「どこがですか?現に私はこんなにも醜い。皆を恐怖に陥れ、忌み嫌われている。しかも私が誕生して以来、心を病む者が後を絶たないというではありませんか」
少年は唇を噛み締め、男を睨みつけた。
男の真意がわからない。何故突然こんなことを言うのか、長い間続けてきた償いが全て無駄だと思わせるためか?どのみち気を許してはならない、少年の心を探る罠かもしれないのだ。
「お前は強い」
—―長い沈黙の後、男がポツリと言った。いつの間にか男の大きな手が少年の背中に置かれている。気が遠くなるほどゆっくりとその手が背中を撫でる、まるで泣き止まぬ赤子をあやすかのように。
「私は強いですよ……いつか償いは終わる、新しい村長は約束してくれました。その日まで耐えてみせます。そして、必ず皆の仲間として認めてもらうんだ」
まるで自分に言い聞かせるようだ。男の手がそっと少年の両頬を包む。心なしかその眼が潤んでいるように見えた。
「いいか、俺のことはすぐ忘れろ」
言われなくてもそうする、巻き添えを食らうのはごめんだ。今日までの償いが無駄になってしまう。少年は首を縦に振った。と同時に、もう二度と此処へは来ないのかな、という思いが頭をよぎる。
二度目の沈黙が訪れ、男が生唾を飲む音が部屋に響いた。
「お前はとてつもない戦闘力を秘めている。その気になりさえすれば今すぐにでも村を全滅させることが出来る力だ。この星もろとも破壊できるかもしれない。それはお前の両親の持つそれぞれの能力が合わさり、偶然産まれた力だ。我々の種族だけではお前ほどの力は一生かかっても手に入ることはない。だから逃げ出せると言った……こんな鎖は簡単に切れるはずだ」
喋り出すと同時に男の顔面からダラダラと汗が流れだした。微妙に息遣いも荒い。
「いいか、よく聴け。お前の姿が醜いなんて全部嘘だ、お前は……」
ブシャア、という音と共に男が大量に吐血した。血の噴水のようだ。驚きのあまり少年は声が出せなかった。男はなおも苦しそうに首を掻きむしる。爪が皮膚を裂き首からも血が流れ始めた。
「だ、誰か人を呼ばないと……」
やっとの思いでそう言った少年の口を塞いだ男の強い手が、呼んではならぬと強く訴えかけてくる。
「でも……このままじゃ」
「い……いいか、今すぐ逃げるんだ!出来る、お前なら……ぐっ、うう……、信じて欲しい……お前は誰よりも……うつくし……ぶはぁあっ!」
最後の言葉を言い終える前に男の動きが止まった。辺り一面血の海だった。少年はたった今まで起きていたことが幻であることを願うように目を閉じてた。心臓が破裂しそうに苦しい。この人は誰だったんだろう……最後に何を言おうとしたんだろう。
「うつくし……?」
気が付くとボロボロと涙がこぼれていた。鼻水も止まらない。薄汚れた寝具は知らぬ間に漏らしていた小便でビチャビチャだった。
しばらく泣き続けた。自分でも何がこんなに悲しいのかわからなかった。何気なく男の手に触れてみたりしたが、やはりこの死体が誰なのか、何故自分に逃げろと言っては突然絶命したのかわからない。ただ、なんとなく自分の身に今までにない危険が迫っていることだけは理解できた。この男もやはり禁戒を破ったのではないか?それならば不自然すぎる死も納得できる。罰が当たったのだ。それはもう取返しのつかない罰が。それならば自分も同じ運命を辿るのではないか。この男の口を塞げず、結果的に彼の言葉に耳を傾けてしまった。償いによって罪を消すことができる、そう信じてきたがそれも不可能な気がする。今ここに誰かが訪れ、男の死体を見れば、何が起きたのか、概ね予想がついてしまうのではないか?少年がお咎めなしとは到底思えない。全身に悪寒が走る。と、その時、複数人の足音らしきものが聞こえた。ハッと我にかえり慌ててベッドに仰向けになった。
今夜は鎖を緩めてもらえる日だった。だからといっていつまでもベッドに腰掛けたままでは何を言われるかわからない。近づく足音に鼓動が激しくなる。だが次の瞬間少年は勢いよく起き上がっていた。
両肘と両膝を体の中心で合わせるように力一杯鎖を引き寄せる、バリンッという破壊音、そして4本の鉄柱がメキメキと亀裂を走らせた。支えを失った岩が少年めがけて崩れ落ちてくる。少年は無意識に目一杯膝を曲げ、そして一気に地面を蹴った。ドンッと地響きが鳴り、部屋に入ろうとしていた男たちがどよめく。

いつの間にか少年は彼らを見下ろしていた。今自分は空高く舞い上がっているのだ。信じられない思いで遥かに彼方に目をやると、夜の闇の中に尖った岩肌が顔を並べているだけだった。どこまでもどこまでも続く裏寂しい風景。無慈悲で破滅的で澱み切った大気—―。
また涙が溢れ出してきた。体の震えが止まらない。一夜にして自分が信じてきたもの全てが崩れ落ちていくようだ。あの男は嘘をついていなかった。体の深部から漲る底知れぬパワー。自分が鎖を引きちぎる姿など想像したこともなかった。再び視線を落とす。皆が口を揃えて「村」と呼んでいた集落には、粗末な住居らしき岩の塊が七つほど並んでいる。毎夜自分の体に欲望をぶつけていた村人とは、実はほぼ同じ者だったのかもしれない。顔も声も似通っていて、誰一人少年に名乗ることもなかったため、いつも性器と匂いで判断をするしかなかった。唯一他と違いを見せたのは、死んだ男だけだ。
「おおい!降りてこい!罰当たり者め!」
「そのまま逃げられると思うのか、この惑星で生きていくにはこの村に留まるしか方法はないんだぞ」
「その先の岩山を越えれば死のガスを浴びて貴様は一貫の終わりだ」
男たちが口々に叫んだと思うと、何処からか3人の女が現れ、男たちの後ろに控えた。
「ああ、目が潰れる、あんな者が月明かりに晒され醜い姿を露わにするなんて……やはりさっさと殺してしまえばよかった」
「お前はどこまで私たちを苦しめんだい!」
2人の女がヒステリックに喚きたて、憎悪に満ちた眼で少年を睨みつける。
「取り乱すんじゃないよ、あんたらも償いに協力すればよかったじゃないか」
少し離れた場所に立っているもう1人の女が2人を小馬鹿にするように言った。
「男たちがあんたらを抱かないなら少年がいるじゃないか、あの子も償いがしたくて堪らないんだよ、素直に若い竿を受け入れてしまいな、そうすりゃその苛々も消えるさね、あははは」
昨夜の女だ―
「あんたは黙ってな!このアバズレ!」
どうやら女たちの言い争いの原因は自分らしいが、少年は関わり合いになりたくなかった。このままずっと空高く飛んで行ってみよう、そうすればいずれ何処かに辿りつくはずだ。いや、しかし、償いはどうする?
多少パワーがあり、舞空が可能と知ったところで、罪が消えるという理屈にはならない。だが、産まれて初めて自由を手にした少年はもう二度とあの部屋に戻りたくないと思っていた。逃亡の罪まで犯した今、戻ればこれまで以上の苦痛を与えられるか、即処刑ということになるかもしれない。
「逃げ出す前に、全てを知りたいとは思いませんか?」
頭上から静かで粘着質な、その上どこか気品に満ちた声が振ってきた。
「この村は……いえ、この惑星の住人が20人にも満たないという事実、あなたは気になりませんか?」
見上げると、月を背に、何かが浮遊していた。初めて観る得体の知れない乗り物だった。もしかすると、声の主の体の一部なのかもしれない。自分を見下ろす男の威圧感に、少年の体が固まる。
敵か味方か、判断がつかぬまま返答に窮していると、男が突然左腕を真横に向けた。
「どうぞ、ご覧になってください」
その言葉を合図に、男の人差し指から光線が放たれ、夜空に大きな光の玉が現れた。
地上から驚愕の声が上がる。
それは形を変え、大きな楕円形に変化し、やがてゆっくりと光の中に映像が浮かび上がってきた。
「あなたが産まれた日の出来事です」


(3)

股から大量の血を流し意識朦朧とする女の傍らで、男が震えている。
男の逞しい腕の中で、血液と粘液に包まれた赤ん坊が大きな産声をあげていた。
「俺たちの赤ん坊だ……、§〈°ΓΔ¶、ありがとう、俺の子を産んでくれて……ありがとう」
名前の部分がうまく聞き取れないのは、女が他所者だからだろう。死んだ男が母親はたまたまこの村に不時着した女だと言っていたことを、少年は思い出した。
「きっと、もうじき追手がきます……あなたはこの子を連れて逃げて下さい、どうか、2人で生きて……お願い」
息も絶え絶え女が哀願する。
「死のガスが漂うこの地までそうそう追っては来れまい、お前だけが殺されるなんて俺には耐えられない。なんとかこの宇宙船で暮らしていくことは出来ないだろうか……」
母乳を求めた赤ん坊が男の胸に顔をこすりつけた。
「わかっていたことじゃありませんか……じきにここの酸素も尽きてしまうことは。私は……不時着して以来、今日までこの宇宙船が持ちこたえてくれたことに感謝しています」
苦痛に耐えながら健気な言葉を放つ妻の姿に、男は嗚咽を漏らした。
「あなたの母親が乗ってきた小型宇宙船はおそらく1人乗り…なんでしょうね。カミュ星人は身籠ってからおよそ3ヶ月で出産すると言われています。
不時着の原因はわかりませんが、長旅を目的としない船ならば、このまま2人、いえ、赤子もいれて3人ですね、皆が生き残れるような酸素の供給は不可能だった。私はそう推測します」
いまいち映像の中の状況が呑み込めない少年の様子を察してか、指先から光を放った男が解説を始めた。
「土地のほとんどが死のガスに覆われてしまっている……からですか?」
少年は、自分を追う村人たちが叫んでいたことを思い出した。
「フフフ……その通りです。だが少し違う、長い間、この惑星自体が腐敗しているようなものでした。宇宙と惑星の関係をいずれ貴方にも教えてさしあげましょう。さぁ、続きをご覧なさい」
言われるまま光の玉に目を戻すと、既に力尽きた両親の姿があった。
「死のガスは気づかぬ間に船内に侵入し、貴方の両親の体を蝕んでいたんですね。もともと機体に欠陥があったのか、不時着による損傷のせいなのかは私にもわかりませんが……」
2人は手を繋ぎ眠るように絶命している。少年は血が滲むほど唇を噛みながらも、その遺体を凝視し続けていた。
突然宇宙船の小窓に、今日死んだ男の顔が現れた。泥まみれの顔面を歪ませ、何かを叫びながら船体を叩き続けている。
そしてとうとう壁を破壊し船内に乗り込んだ。
「兄さん、目を開けるんだ、頼む……!」
父親の肩を揺さぶり号泣している。まるで獣の咆哮のようだ。
自分に逃げろと言ったあの男は、父の弟だったのか――
少年は血走った目を思い切り見開いた。
「全身泥だらけなのは、彼が毒ガスを避けながらこの宇宙船に近づくため、地下へ潜り、道を掘り続けたからです。貴方の叔父はなかなかの知恵者だったようですね」
「オジ……それが彼の名前ですか?」
涙で滲む目を擦りながら少年は何度もオジ、オジ、と繰り返した。
「またまたちょっと違いますが、いいでしょう。この時オジは驚くべき生命力で生き残った貴方を連れてまた地下に潜りました。しかし、既に村人たちがその地下道を通り、あなた方の背後に迫っていたのです……」
「捕まったのですか?」
「ええ、村へ連れ戻されました。だが殺されなかった。ナブール星人にとって、同胞殺しはご法度ですからね。それに、働き手が必要だったからです。食料となる虫を捕ったり、糞便を始末する為のね……」
「オジは黙って言いなりになるような人には見えません」
少年はいつの間にかオジへの愛慕を感じていた。
「村長によって記憶封じの術を施されてしまったんですよ。しかも、万一記憶が蘇っても真実を語れば体内の血液が毒に変わる。そんな術ばかり持っているというのも、いかにもナブール人らしい……」
そう言うと、光の神―― 少年は気づくと心の中で謎の男をそう呼んでいた―― は唇を歪ませクククと笑った。

その後も映像は続いたが、少年はとうとう目を背けてしまった。村人によるオジへの拷問は凄惨を極めていた。夜空にオジの悲鳴が響き渡る。下を見下ろすと、不安と悦びの入り混じった表情で村人たちが光の玉を眺めている。
「彼らは拷問が大好きですからね……この映像でその味を思い出しているんでしょう」
オジは自分という禁戒の証を守るため逃亡を図ったものの、すぐに捕まったではないか。その後の労働とやらが償いではないのか。それ以外にも痛みを伴う償いが必要だなんておかしい—―。少年の中に底知れぬ怒りが沸き上がってきた。彼にとっては、映像の中でしか会ったことのない両親よりも、実際に言葉を交わしたオジの存在が大きかったのかもしれない。辛い場面が終わった気配を感じ、少年が目を開けると、男たちがオジを拷問する傍らで女たちが愚痴りあっている映像が流れていた。
「うちの旦那もまた軟禁小屋に忍び込もうとしたよ、もういい加減にしてほしいよ!」
「あいつがいるからだよ、殺してしまえばいいのに」
「同胞といっても混血児だしね。村長は試してみる度胸もないのかね……あの耄碌爺め。今はまだガキの体が耐えられないってんで我慢してるみたいだけど、奴が7歳になったら償いと称して性奴隷にする気満々だからね」
「フン、あれが7歳になるまで生きられるのかね、あの爺さんは」
「あのガキが成熟したら一大事だよ。きっと今以上に村の男たちはあたしらを抱かなくなる、今だってもう何年も男たちは子作りを拒否し続けてるんだ」
「村長夫人が元気だから今こうしてあの小屋に結界を張ってくださってるが、あそこの夫婦もガタガタだしねぇ」
現在と違い、村人が大勢生存していることに少年は驚いた。仕事をサボり延々と話し続けてる女たちの他にも、遠くの方で動き回っている男女が何十人も見える。
「お前だよ!お前が産まれてこの村の男たちに姿を見せたその日から、男は赤ん坊を欲しがらなくなったんだ!」
少年は、突然現実に引き戻された。現代の生き残りが遥か下の方で叫んでいる。
「ふざけるな!お前たち女共の中にも亭主とのまぐわいを拒絶する者が現れたじゃないか!」
男が応戦する。
「なんだと!それでもわたしたち女連中はほとんどが耐えていたさ! そこにいるアバズレみたいになりたくなかったからね!」
そう叫びながら、土色の草を口に咥えて岩の上に雑魚寝している女の方を指差した。昨日少年の上で腰を振っていたあの女だ。
「どうせもう終わる。いや、とっくに終わってるのさこの星は。先代の村長は7歳のガキの穴にぶちこんだまま、自分の嫁に背後から刺されつまらん死に方しやがるし、殺した本人は掟破りの罪で自滅。村人の子孫は途絶えた。あたしは充分楽しんできたから後悔はないよ」
女はニヤリとして少年を見上げた。信じたくはないが自分がこの村の衰退の原因らしい。だが、本当にそうだろうか?死のガスは自分の誕生とは関係ないはずだ。それに、この村人たち──。
考え込んでいるうちに、光の玉が消えていた。
「そろそろフィナーレといきましょうか」
「フィナーレ?」
「あなたがたったひとつの言葉を口にするだけで、村人たちは消滅します。」
光の神は満面の笑みを浮かべながら少年の頬を撫でた。
「消滅とはどういうことですか?」
「放っておいてもこの村は……いや、惑星そのものが限界ですからね、消滅するんですが、貴方の手で終わらせませんか?勿論そのパワーを使っても構いませんが、まだコントロールできないでしょうから……」
「どうせ消滅するものを、私の手で消すことはないと思います」
少年の心は複雑だった。自分がもっともっと空高く舞い上がれば、その形も判別できなくなり、村人全員が石ころのように見えるだろう。彼らはもう自分を傷つけることは出来ない、今の少年にとってちっぽけな存在だった。いっそのこともう、怒りと共に全てを忘れてしまいたい──、そう思い始めていた。
「貴方は怒りの感情を開放する術を持っていないのですね。でもこれは試練だと思うべきです。全てを断ち切るならば……そして、貴方が自分の価値を十二分に理解する為にも」
「私の価値とは……?」
村人たちが戦々恐々としている、やめてくれという怒号が飛び交っていた。
光の神が少年の耳元でそっと囁く。それはどこか懐かしい言葉だった。

「私は美しい」

少年が発すると同時に、村人たちの動きがピタリと止まり、突然夜空を埋め尽くす程の星が降ってきた。
もう村人は叫ばなかった。皆、涙を流して流星に目を奪われている。

「貴方たちは醜い」

村人たちの体に亀裂が入る。

「私は美しいのだ」

亀裂がさらに枝分かれしてとうとう顔面を覆った。

「美しかったんだ……」

バリン、という音と共に村人たちの体は粉々に砕けた。

頬を伝った涙が星の光を受け、少年の瞳がキラキラと光っている。
とめどなく流れ落ちる涙はやがて、村人たちの欠片に降り注ぎ、花を咲かせた。

(4)

方々から地響きがする。幾千もの星が降り注ぎ、まるでこの惑星を攻撃しているようだ。
「星は美しいだけではなく、強さも持っているんですよ……貴方のようにね」
瞬きする間に、何やら丸い物体が少年の真横に現れた。
「これは……?」
「貴方専用の小型移動機です。どうぞお乗りなさい」
光の神が手招きする。
「貴方が宇宙空間で生きられるか、まだわからないのでね……念のためです。」
「ウチュウ?」
ワクセイ、ウチュウ、セイジン、光の神の言葉は難しい—―。
少年は空を見上げた。ずっと上まで飛び続けたらウチュウやワクセイに辿り着くのかもしれない、そう思ったが口には出さなかった。
「これからは私が何でも教えてさしあげますよ、ザーボンさん」
ザーボン、それが自分の名前だったのか──
少年は頭を掻きながら、指示通り移動機に乗り込んだ。
「少し眠りなさい」
見た目に反して座り心地の良い椅子に腰かけると、耳元から光の神の声が聴こえてきたので安心して目を閉じた。

目覚めると小窓の外で炎に包まれた球体がどんどん膨れ上がっていくところだった。
「もうじき惑星ナブールが消滅します」
光の神の声を合図に、炎の球体が大爆発を起こす。一瞬のうちに一本の細長い光の線に変わった。
消えたのだ、完全に──
もう自分が産まれ育ったあの村は存在しない、二度と戻ることはない。産まれてから今日まで自分を憎み、痛めつけてきた者たちは名も無き花となり、炎に包まれた球体ごと散っていった。
少年の脳裏に辛いばかりの思い出が走馬灯のように蘇る。
そうだ、きっとあれは――
「美しい花……」
その言葉を口にすると、一気に感情が溢れ出てきた。そして、少年は産まれて初めて号泣した。
自分の耳に届いている己の叫び声は、村人たちとそっくりだった。獣の咆哮──自分の中には確かに村人と同じ血が流れているのだ。
彼らはその言葉自体に呪いを掛けたのだろうか……自分たちの姿があまりにも醜いから。少年はいつの間にか『美しい』だけでなく、『醜い』という概念をも理解していた。もしかすると、もっと早く村人たちが事実を受け入れ、『美しい』と口にしていれば、彼らの未来は違ったものになっていたかもしれない。花ではなく、またもっと別の姿に。それはあまりにも短絡的な考えだろうか――。
少年は様々な思いを巡らせ、止まることのない涙を流しながら、喉が枯れるまで叫び続けた。
—―そして精も根も尽き果て絶入した。

目覚めたとき、真っ赤に腫れた少年の目に飛び込んできた景色は、今まで見たことのない巨大施設だった。それも一つや二つではなく、その間を大勢の人が行き交っている。上空では自分が乗っていた移動機と似た乗り物が次々と着陸態勢に入り、反対に、これから空へ飛び立とうとする機体もあった。あまりの光景に、少年は先ほどまで自分が悲しみに打ちひしがれていたことを忘れていた。
小型移動機のドアが開くと、光の神が少年に手を差し伸べてきた。
「今日から貴方は私の側近になるべく、たくさん学び、たくさんの経験を積んでもらいます」
そう言ってから、光の神は初めて少年に『フリーザ』と名乗った。
「フリーザ様……」
「ええ、宜しくお願いしますね、ザーボンさん」
ザーボンという名は誰がつけたのだろう、尋ねようとすると既にフリーザの姿は遠くにあった。
「お前が新入りか。俺はカーボンだ、名前が似てるな。ついてこい」
フリーザと入れ違いに、少年の世話係らしき男が現れ、施設を案内すると言って少年の肩に手を置いた。

ザーボンは男に導かれるまま、半円型の建物内に足を踏み入れた。
「勝手に開いた……」
「自動扉を知らんのか?田舎者め」
男が鼻で嗤ったがザーボンは気に留める様子もなく、長い廊下を見つめた。
「うわっ!動いた、動いてる」
「はははっ、床が動くのが珍しいか?お前の部屋まで1kmはあるからな、移動時間が惜しいってやつだ。まぁ、それもこの建物だけだがな。ここには最新設備が整ってる。幸運だぜお前は」
男の手がザーボンの腰あたりまで下がってきた。そのまま緩やかに、若く引き締まった尻に指を伸ばす。
「やめて……くれ。私はもうそういう事を受け入れるつもりはないのです」
「逆らうか?新人の癖に……言っておくが、フリーザ様の言う側近候補ってやつは社交辞令だぜ。期待しちまってるようだが、所詮下っ端さお前は」
ザーボンは、男の指が尻の割れ目をなぞる感触に身震いしながら、部屋に到着するまでの数十秒間をじっと耐えた。

建物内に絶叫が響き渡った。
「何事ですか?」
「はっ!スカウターに大きな反応が……今見てまいります」
「いいです、私が行きましょう」
狼狽する部下を尻目に、フリーザは小型ポットを発進させた。あれはおそらくザーボンに当てがった大部屋から聴こえた悲鳴──。
猛スピードで廊下を移動するフリーザが不気味な笑みを浮かべているのを目にした部下たちは震えあがった。
長い廊下の先はちょうど建物と同じよう湾曲し、壁には3メートル置きに扉が並んでいた。
それぞれ4名程が寝泊まりする大部屋になっている。
「入りますよ」
フリーザは声をかけ、手前から2番目の扉の中に入った。
「これは……?おやおやぁ?」
室内には2段ベッドが2つ、左右の壁に備え付けられている。
正体のわからない千切れた手脚と頭部を失った上半身、部位の不明な肉の塊、贓物が散乱していた。
部屋の中央は全身が真っ赤に染まったザーボンの姿があった。
フリーザに背を向けているが、何者かの腸が首の辺りに絡まっている。
必死にほどこうとするが、その手が震えてしまいなかなか外せない。
「私が取りましょう、こっちを向いて」
振り向いたザーボンの顔は血と涙でぐちゃぐちゃに汚れていた。
「ほれ、もう取れました。シャワーを浴びた方がいいですね」
血まみれの手がそっとザーボンの頬に触れると、体の震えが止まった。
「わ……私は、お、男たちに……、嫌で……もう、嫌でたまらなくて」
「いいんですよ、彼らはどうでした?手強かったですか?殺すのは簡単でしたか?」
「え……?あの、自分ではわからぬうちに、気づいたら全員がこんな風に……」
目を丸くして答えた。
「なかなかの戦闘力でしたね、今日はよく眠ることです。あとの掃除は他の者にやらせましょう」
ザーボンは茫然自失のままシャワー室へ入った。
初めて訪れた土地で、4人もの命を奪った少年は、その夜悪夢を見ることもなく泥のように眠った。

(5)

「おい、新人、朝礼だ、起きろ」
耳元からガサガサした声が聴こえた。どうやらベッドの小さな穴から出ているようだ。
「頭の近くにリモコンがあるだろ、長方形の、ボタンがついてるやつ、それの赤くてデカイやつを押せ」
言われた通りにすると部屋の扉が両側に開いた。
「遅ぇんだよ、もっと早く起きろ」
迫力のある顔面とうらはらに全身桃色の男。突き出た腹に太くて短い手脚の男が部屋に入り、その分厚い唇を動かして怒鳴っている。
「あの……フリーザ様は昨日こういうことしなくても部屋に入れたみたいですけど……」
「あ?ああ、あれは大部屋だからな。色々あんだよ、自由に入れないと困ることが、なんつーんだ?中で何やってるかわからんしな」
「この部屋は?」
「ここは個室だよ個室。わかるか?特別待遇、戦闘力が高い奴にしか与えられん有難い部屋ってことだ。いいから起きろよ」
男はベッドに腰をかけながら面倒臭そうに答えた。
「あ、貴方の名前は?」
「んだてめぇは、先に名乗るのが礼儀ってやるだろ。まぁてめえの名は一夜にしてフリーザ軍全体に知れ渡っちまったけどな」
怒りっぽいが不親切ではなさそうだ──。ザーボンはなんとなく安堵感を覚えていた。
「ザーボンです……多分」
「ん?ああ?なんだ多分って、てめえの名前だろうが、俺はドドリアだ、ドドリア様!よく覚えておけよ、二度は言わねえからな、さぁ起きて顔洗えよ。着るものも持ってきた」
そう言ってドドリアは不思議な衣服、何やら硬そうな素材で出来た防具のようなものまでセットでベッドの上に放り投げた。
「うおぉいっ!!!!てめえ何いきなり全裸になってんだバカヤロー!!!」
「え?何故って……着替えるために」
「これだから田舎者は困るぜ、礼儀ってもんだあるだろ。それに……てめえはなんだか変わった顔してるしな……」
ザーボンは初対面の奇妙な男に、変わった顔と言われても不快にならなかった。

着替えを終えたザーボンはドドリアの案内により「朝礼」という名の集まりに参加するため巨大な広場に到着した。

「すごい数……一体何人くらいここにある待ってるの?」
「なんだてめえもうタメ口とはいい度胸してるな……まぁいい、大体3000人ってとこかな。とはいっても今別の星に遠征してる奴らもいるし、持ち場を離れられねえ科学者や機械工もいるからトータルでいえばなんだかんだと5000人はくだらねえと思うぜ」
「ご、5,000人???」
思わず声が裏返ってしまい周囲が一気にざわつき始めた。
「お前は今注目の的なんだよ、自覚しな」
ザーボンは不安だった。周囲を見回しても仲良くなれそうな相手がいるとは思えない。次は何をされるかわからない不安──。
「力だよ力、全部力次第だザーボン。殴る側と殴られる側、奪う者と奪われる者。お前はどっちになる?」
奪われる者──。
ザーボンはオジと両親を思い浮かべ唇を噛んだ。
「宇宙資源は限りがあってな、フリーザ様がこうしてまとめてくれなかったらどうなってたことか。お前にもいずれわかるだろうよ」
「私には難しいことはわからない、でもフリーザ様の為ならこの命……掛けてもいいと思ってる」
「フン……いい心構えだぜ。さて朝礼が始まる。まずはお前の紹介からだ、緊張してんじゃねーぞ」

どこからともなく現れたフリーザの姿は偉大だった。
彼に指を指され、檀上に上がったその時、ザーボンは既にフリーザ軍きっての忠臣となった。

(6)

「おい、

かつて数千の兵士たちを前に、震えた声で自己紹介の言葉を述べてから10年が経った。


Kiss

孫悟空の死から三か月が経過した――
戦意喪失という重症を抱えたベジータにも、ようやく回復の兆しが見えたてきた。
だが重力室にこもる時間は以前よりだいぶ短い。
3カ月のブランクにより急激に体にかかる負荷の影響を考慮してのことだった。
しかし、そんな調整も特訓開始から3日も経つとどこへやら、遅れを取り戻すかのように
重力数値は右肩上がりに大きくなっていく。

特訓再開から7日目の夜、ブルマはベジータの部屋を訪ねた。
部屋のドアを叩いた口実は、急激に特訓量を増やすことを咎めるという、ありきたりなものだったが本心は違った。
ブルマの体は異常なまでにベジータを欲していた。
「お前の言い分はわかった…いつものことだ」
追い返すように手をを振り、特訓の余韻が残った体をベッドにあずけた。
ドアにもたれたままベジータを見つめるブルマの瞳が僅かに揺れる。
「なんだ……?まだ何かあるのか?」
「あんた気づいてる癖に何も言わないのね」
少し不機嫌な顔でベジータに近づき、腰に手を当て仁王立ちした。
戦闘服のアンダースーツがブルマの肉感的な体を包んでいる。
酷く卑猥に見えたがベジータは表情を変えなかった。
「改良したのか?お前は以前、ほぼ完壁な出来だと自慢していたろう」
「この世に完璧なんてことはないわね、あってもあたしの存在くらいかしら……なーんて」
息苦しい沈黙が続く。
誘ってやがる……。
ベジータは微かな動揺を隠し、頭からシーツをかぶった。
「俺は眠い、もう行け」
欲情しなかったわけではないが、以前こんな風にアンダースーツ姿のブルマを犯したことを思い出し、妙に気まずくなってしまった。
「何よ……あんた孫くん死んであっちも元気なくなったの?」
「下品なことを言うな、元気がないわけじゃねえ」
「じゃあなんであれ以来なかなかあたしを抱こうとしないの?」
ベジータは言葉に詰まった。
あれ、とはほんの数日前、求められるままブルマを抱いたことだろう。
「抱く抱かないに理由はない」
「何言ってんのよ、抱くときはやりたいとき、抱かないときはやりたくないときに決まってるでしょ」
頬を膨らましベジータを睨む。
「そうじゃない……抱かない理由をいちいち聞くな」
ブルマが部屋に入ってきたときから彼のペニスは熱を帯びていた。
今もシーツをぶち破りそうにいきり勃っている。
だがブルマの華奢な腕を掴んで強引に抱き寄せることができなかった、というか、そんな事をしたくないと思った。
「なによお……あたしが告白なんかしたから面倒くさくなったとでも言うの?むかつくわよあんた」
ベジータは暗闇の中で、卑猥な体をよじり不貞腐れるブルマの姿を脳裏に浮かべた。
「面倒ではない、そもそも俺は知っていたと言っただろ…」
穏やかな声に、ブルマは意外な優しさを感じとった。
「何?何を知ってたの?ちゃんと言ってよね」
強引にシーツをひっぺがし、少し意地悪な気持ちで問いただした。ベジータの裸体があらわになり、傷だらけの背中に釘付けになる。
見慣れた背中なのに……。ブルマの細い指がそっと傷跡を撫でた。硬い背中がピクリと反応する。
「お前が……俺のことを好きだのなんだのと……ってやつだ」
予想しなかったストレートな返答にブルマの胸が早鐘を打つ。
部屋中に響いているような気がして胸元を抑えた。
「ずるいわね……あたしばっかり」
ブルマの恥じらう声が耳をくすぐりベジータは振り向いた。
「今日は抱かん」
そう言ってブルマの腕を掴んだ。
あっ、と驚くブルマの口をベジータの唇が塞ぐ。
驚くほどぎこちないキスにブルマは戸惑った。
「なにこれ、童貞と処女じゃないんだから」
「今夜はこれでいい」
「は?」
「壊したくない、さっさと行け」
ブルマに背を向け再びシーツにもぐった。
今度こそ本当に寝るぞ、という強い意思表示を感じたブルマは、すごすごと部屋を出た。
突然ベジータの気が変わって、やはり抱かせろと言われることを期待しながら、のろのろと廊下を歩いた。
廊下の窓から漏れる月明かりを見ながらふと立ち止まる。
「あれ……?うそ……もしかして……壊したくないって……」
初めて2人が結ばれた日のことを思い出していた。

「サイヤ人て普通の力で出し入れするのね」
過去に放った自分の言葉だ。
「感情もパワーも加減できる、それがエリートだ」
続くベジータの台詞も思い出した。あのとき確かにベジータはそう言った。
「やだ……っ。あいつってば……ほんとに……」
ブルマは火照る頬を両手でおさえながら、静かに夜空を見上げ微笑んだ。
不器用なキスの感触がこぼれおちてしまわないように。

END

ブルマの憂鬱

真夏の早朝、部屋の窓から差し込む強い日差しとは対照的に、冴えない顔で天井を見上げる一人の女がいた。

女の名はブルマ。
この広大な土地に堂々たる居を構えたのは、一代でカプセルコーポレーションという巨大企業を立ち上げ成功に導いたブルマの父、ブリーフ博士である。

最新式のエアコンを完備した自室のベッドの上には、
頼りないパンティだけを身に着けた彼女の美しい肢体が横たわっていた。
細くしなやかな右腕が、どこか怠惰な動きでベッドサイドテーブルへ伸びる。

白い指が飲みかけのワイングラスを、だらしなく開いた薄紅色の口元へ運ぶと同時に、部屋のドアがドンドンと強烈な音を立てた。

こんな乱暴にドアを叩くのはあのふてぶてしい居候男しかいない。

「うるっさいわね!!!!今開けるから叩くのやめなさいよ、この野蛮人!!!!!」

強烈な打撃音に対抗すべく出来る限りの大声を張り上げたつもりだが、思いのほかその声は届いていないようで、 男はその動作を止める気配がない。
ブルマは二日酔いの頭に響く不快な打撃音に耳を塞ぎ、わずかな抵抗とばかりにシーツにくるまり現実逃避を試みた。
「ベジータのバカたれ!うんこたれ!絶対開けないから!」
その言葉を言い終わる前に、いともあっけなく頑丈な扉は部屋の最奥まで吹っ飛んでしまった。
「命拾いしたな……だらしなく寝転んでいなければ今頃壁と扉に挟まれ、貴様はサンドイッチの具のようになっていただろう」
来訪を拒否されたにも関わらず、男はニヤリと笑い、部屋の入り口に立ちはだかっていた。
くるまったシーツの隙間から自分を睨み付ける女の姿はなかなか扇情的だ。男の股間が熱を帯びている。
「何?何の用?」
男がこの家に住むようになってから今日まで、ドアの破壊行為に及んだのは一度や二度ではない。頭には来るものの、ブルマの顔に動揺は見られなかった。
「昨日のうちに重力装置の修理をすると貴様は言っただろ、話が違う」
「……偉そうに言わないでよ。後でやっておくからどこかでブラブラして待ってれば?」
サイドテーブルから煙草を1本とろうと体をずらした瞬間、ブルマの体を覆ったシーツがズルリと床に落ちた。
部屋の空気が凍りつく。
真っ赤なパンティの両端は解けかかった紐でかろうじて女の骨盤の凹凸に食らいつき、そもそも何もつけていない上半身は、二日酔いをもろともせず朝日を浴びたパオズ山のように二つの膨らみが凛として聳え立っていた。
先程口にしたワインのせいか、いつもは青白い血管が浮き出た首元から乳房にかけてほんのりと朱色に火照りを見せている。
「き……貴様、何を呑気に煙草なんぞふかしてやがる、それでも女か」
「ここはあたしの部屋よ、あたしの勝手、むしろラッキーじゃない?こんなセクシーなカラダを視姦できてさ」
口から煙を吐きながら、乳首の先端を見せつけるように胸を反らせた。
「視姦だけで済むとは限らねえだろ。さっさと服を着ろ、目障りだ」
強い非難の口調の割に男の目線はその膨らみから1ミリも外れる気配がない。
「あたしは今二日酔いで頭がガンガンしてるわけ。っていうか昨日もさんざんだったのよわかる?わかるわけないわよね。トレーニングにしか興味ないあんたなんかに」
怒りに任せて灰皿に押しつぶした煙草の残火が指先に触れた。
強烈な熱さに一瞬ビクッとしたブルマの動作に、男は釘付けになっている。

ーー軽い絶頂を迎える雌の痙攣のようだな
男は思った。
ーー人間の肉体の中で脆く敏感な箇所の一つは【あらゆる先端】だ。指先はいわずもがな、この女がこれみよがしに曝け出している尖った乳首。今すぐ女の動きを封じ込めその挑発的な先端を舌先で転がし、唾液まみれにして噛みちぎってやったらさぞかし楽しいだろう。ブルマの勝気な顔は一変、 眉を八の字にして涙目を浮かべながら自分に許しを請い、心とは裏腹に反応してしまう羞恥心は、モゾモゾとくねらせる腰の動きを速めて、最後は泣き叫びながらシーツを掴み体を弓にして絶頂を迎える。俺のモノを挿入しなくても十分女を服従させることが出来る。

妄想を終えた途端男がギョッとした。
ブルマの顔がいつの間にか、互いの息がかかる距離まで迫っていた。
「あんた……今すっごくエッチな想像してるでしょ?」
ほんの僅か、男の右眉が吊り上った。
「自惚れるな、俺はそんなことに興味はない。 俺が貴様に求めるのは地球人にしてはマシなその頭脳とちょっとばかし役に立つ技術力だ。さっさと服を着て重力室へ行け」
日頃無口な男が、ほんの数秒前まで脳内を占めていた不埒な妄想を吹き飛ばすように勢いよく捲し立てた。
普段ならここでまた女特有の無意味な言い訳と、ヒステリックな抵抗が見られるはずだったが、ブルマは俯いて蚊の鳴くような声でボソボソと何かつぶやき出した。
「……………………」
「なんだ?聞き取れん、いつものようにキンキンと喧しい声でハッキリ発言しろ」
「あんたみたいなさ……ガキなんだかオッサンなんだかわかんない男の好みなんかどうでもいいけど……結局そこなのよね。せっかくの美貌とナイスなボディがあっても、世界有数の財力とこの天才的な頭脳が足枷になって並み大抵の男は逃げちゃうってわけ……」
先週ヤムチャと別れて晴れてフリーとなったブルマは、気分転換に周囲から不評を買っていたアフロヘアーを、ストレートに戻したその帰り道ナンパしてきた男と数回のデートを重ねていた。
そしてまさに昨夜、初めてのディナーの席で男はブルマへ早急なプロポーズを試みたのだ。
二人の間に肉体関係は無かった。
ブルマはあえて彼に自分の身分を明かしていなかった。
相手から尋ねてくることはなく、ブルマは最初から世界で最も有名なカプセルコーポレーションの令嬢だと知っての誘いだと思い込んでいた。
だが違った。
男は長いこと未開発地域に住む人間の為のボランティア活動を目的に、地球の端のそのさらに端の地域に住み着いていたらしい。そこには当然テレビなどのメディア機器は存在しなかった。
ブルマはこの純粋な男を特に愛していたわけではないが、なかなかの美男子で真面目なその性格は、ヤムチャの度重なる浮気?で乾いていた心を癒すには十分な存在になりつつあった。
だがそんな関係も昨日あっさり終焉を迎えたのだ。
ブルマの身分を知った男はただただ唖然とし、
「僕ではとても釣り合わないし、一生満足させてやれる自信が持てない」
その一言を残しブルマを置いて店を出てしまった。
そしてこの二日酔いに繋がったというわけだ。
「ばっかみたい……」
奇妙な沈黙が部屋を包んだ。
「また男か……くだらねえ……」
仁王立ちの姿勢からいつもの腕組みポーズに変えてベジータはブルマの目をじっと見つめた。
潤んだ瞳は、つい最近男が覚えた、 南都方面に広がる【海】というものに似ていると思った。
「意味わかんない。【満足させてやれる自信】って何?あたしは男に満足させてほしいなんてこれっぽっちも思ってないのに何様よまったく。このでっかい家で育ってお金持ちで容姿端麗で天才的頭脳を持ってることが気に食わないって頭おかしいわよ」
機関銃のように次々とブルマの口から吐き出される愚痴を黙って聞いていたベジータが突然口を挟んだ。
「所詮は下等民族だ、そしてその野郎はその中でもさらに下等、最下等なんだろう」
「はああ?」
「俺はむしろこの程度の家じゃやっと及第点に届く……ってところだな。設備に関してはまあまあだ……。俺の助言を取り入れたドクターの臨機応変さは少し認めよう。だがメディカルマシーンや戦闘服の再現が出来ないこんな状態ではやはり俺の満足感を得られるレベルには達していない」
「は、は、はあ?居候の分際で何様よ。頭おかしいんじゃない?」
無礼極まりない居候の発言にブルマの大きな瞳がめまぐるしく動いた。
一体この男は何を言いたいのか。
音も立てずにベッドへ移動すると ベジータはくしゃくしゃのシーツを手に取り、そっとブルマの肩にかけた。
普段は見せない男の意外な行動に、たった今投げつけてきた横柄で傲慢な発言を思わず忘れそうになる。
「全てはてめえの中に流れる血によって定められている。俺は 生まれながらに戦闘民族サイヤ人であり、その中でもずば抜けて高い戦闘力とセンスを身に着けるエリートであり、王族だ。」
生涯の目標とも言うべき親の仇?にあっさりと殺された挙句、大嫌いな悟空たちの手によって蘇生し、身ひとつで地球に飛ばされ、周囲に悪態をつき嫌われながらもあっさり人の誘いを受け入れこの家に住み着いた身寄りのない居候の分際で、これ程堂々と胸を張り自慢話を始める人間は、この広大な宇宙を探してもおそらくベジータただ1人だろう……。
ブルマは、さぞかし間抜けな顔でベジータの話を聞いているだろうな……と冷静な自己分析をしながら男の口が閉じるのを待った。
「そしてその事実は血反吐を吐いて倒れようとも変わらない。俺はいつまでも王子でありエリートだ。今はカカロットに後れをとってはいるがほんのひと時のこと、この高貴な血は、俺を宇宙最強の男にする為に今日もこの体内で蠢いている」
「あのさ……だからなんなのよ」
理解力のない女だと言わんばかりにベジータの額に青筋が浮かび、得意の大きな舌打ちが部屋に響いた。
「つまり……貴様の運命は変えられない。そのちょいとマシな頭脳はどう足掻いても下等な連中と同等には変化しないし、財力に関してもドクターが存命な限り増える一方だろう。そして、俺にはよくわからんがその美貌とやらも俺の拳でグチャグチャに潰してやらん限りそのままだろうな」
「つまり……?」
「諦めて働け」
「あんた本当に、もう一回死んできなさいよ」
「わからねえ女だな。今は人造人間とかいうガラクタ共の襲来に向けて俺の為に身を粉にして働けと言ってるんだ。それが貴様が持ち得た才能とやらを無駄なく活用する方法だろう。」
真剣に耳を傾けた自分がバカだったと、脱力感を露わにした横目でベジータを睨みつつブルマはクローゼットから白いシャツとホットパンツを取り出した。
「くだらん男にうつつを抜かすな。今は俺の為に日々を生きるのが賢明だ」
部屋を後にしたベジータの後ろ姿を眺めながらブルマはため息をついた。
「あいつ……まるでプロポーズじゃない。イカれてるわね」
そう独り言ちると、新たに煙草を一本口に咥え、歩き出す。その顔は、恋に破れた二日酔いの女から、天才科学者のそれへと変化していた。
空に浮かぶ太陽は先程よりほんの少し高い位置で輝き、ブルマの体を照らしていた。

END

道の先には

ガタガタと音を立てヒビ割れた窓ガラスが揺れた。
ベジータは壁に背を預け、存在の不確かな敵に最新の注意を払いながら、僅かに頭の位置をずらして外の様子を伺った。
—―どうやら奴らは立ち去ったようだ。

気が付くとその場に腰を下ろしていた。
先程までの緊張感から解放され体中の力が抜ける。

彼は今までどんな環境においても地べたに尻をついたことはなかった。
侵略先の惑星でも惨殺した先住民の体を椅子がわりにしていたし、ナメック星では貴重なドラゴンボールに腰掛けていたほどだ。

──あんたはいわゆる『潔癖症』ってやつよ

そうかもしれない。
こんな時に特に意味のないブルマの言葉を思い出すなんてどうかしてる。

「チッ…」

自分の舌打ちが思いの外部屋中に響き、無性に腹が立った。

ベジータの体は悲鳴を上げていた。
頰は斜めに切り裂かれ、流れ出た血液が乾き始めている。
左眼は目蓋が腫れ上がり視界を遮っていた。
腕も脚も打撲による激痛が走り、一体どこの骨が何本折れているのか自分でもわかっていない。

やっとの思いで立ち上がると、引き摺る脚でブルマの部屋を目指し階段を降りて行った。
呼吸は荒く、今にも倒れそうな状態だが、下半身には熱い血液がドクドクと脈打っていた。

──やれるのか?

こんな状態で女を抱くのは不可能かもしれない。頭では理解しつつも自分の足を止めることが出来なかった。
近づいてくる死を感じ男は笑った。

どのくらい時間をかけただろう、蜘蛛の巣だらけの階段を降りると目の前にブルマの姿があった。
淡い照明の光に照らされた女はやはり美しかった。
振り向いた大きな瞳に涙が浮かび、薄紫色の髪がわずかに揺れる。
女がコクリ唾を飲み込む音が届いた。

「おかえり……」

その言葉を合図にベジータは彼女の体に向かった。左手で細い腰を掴み、伸ばした右手と壁の圧力で弱った体を支えた。
2人の唇が重なり互いの体の隙間が埋まる。
ブルマが床に工具を落とした。
驚いて僅かに開いた口の中に男の舌がねじ込まれた。互いの息遣いだけが聞こえる。

「お前を抱く」

「──死ぬわよ」

死ぬとしても此処ではない。
ベジータは再び舌を絡めながらブルマのズボンを下着ごと引き裂き、白い左脚を抱え上げた。
壁の支えを失った体がフラつく。苦痛に顔が歪んだ。

「俺の服を脱がせろ」

ベジータの股間はアンダースーツを突き破らんばかりに膨張している。ブルマは言われるままにそれを解放した。
スーツの端に引っかかり反動をつけた肉の棒がブルンと跳ね上がった。ベジータは軽く膝を曲げブルマの中へ入った。
既に潤っていた恥ずかしさに眉を寄せたブルマの熱い吐息が、ベジータの耳にかかる。

──俺は一体何処へ向かっているのだろうか。

答えが出ないまま今夜も俺は女の中で果てた──

END